恋愛脳/黒川伊保子著

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恋愛脳

「恋愛脳」 男心と女心は、なぜこうもすれ違うのか
黒川伊保子著  新潮文庫

 

 読み手として「虚を衝かれた」というしかない。それほど、思いもよらない内容だった。

 一般論として、女という動物が身の回りの細事や、より具体的なものに関心が高く、一方、男という動物は抽象的な議論を好み、地球の裏側で起こっていることにも関心をもつこと。したがって、男ならモスクワやアジスアベバやブルガリアがどこにあるのかについて、知っているいないは別に、関心のあるのとは対照的に、女は全く関心を持たない。 だけど、渋谷やお台場や原宿やディズニーランドは必要以上に知っている。

 だから、この範疇に属さない男(右脳と左脳を結ぶ梁の太い男)はオカマ嗜好が強く、女(梁の細い女)はレズ嗜好が強いという。たとえば、女性にも数学者、天文学者、科学者はいるけれども、男女比でいえば、わずかな数で、そういう人は男性的な頭脳の持ち主である。だから、やはりというべきか、世界的に、かつ歴史的に、人類に貢献度の高い発見や発明のほとんどは男性によっている。 それが結果として良かったかどうかは別にしても。

 (尤も、封建時代には、女性の発見や発明を男性のものにしたケースも多々あったであろうが)

 以上のようなことは、これまでの人生経験で、漠然と諒解していたが、それが「なぜなのか」という点で、「男性脳」と「女性脳」との相違、(右脳と左脳をつなぐ「梁」の太さの違いなのだそうだが)、互いに解りあえない理由、相互間の苛々の原因のほか、恋情というものが相手が誰であれ永遠に継続しない以上、どのレベルで自制し、どのレベルまで努力し、どのレベルで妥協するかを、本書が明快に解き明かしてくれ、作者の賢さ、明晰さに痺れ、そして、文章のもつ「読者心理を把握する仕方」に脱帽した。 このような文体に出遭ったのも初めて、当初かなり翻弄され気味だった。

 かつて、ある女性から電話が入り、身の回りの色々な問題をこまごまとしゃべったあげく、「ねぇ、どう思う?」といちいち訊くから、当方としては必死になって一つ一つの解決策を考え、提案したにもかかわらず、その女性は途中で、といっても30分は経っていたが、「あら、もうこんな時間?」といい、「じゃ、またね」と電話を切った。彼女としては解決を求めていたのではなく、話すことでストレスを発散させたかっただけだったことを、直後に推量したが、この本を読んですべてが氷解した。

 作者による男女の心理分析は見事というほかはないが、こういうお母さんをもつ息子は自分の言動の心理的な裏舞台のすべてが見透かされてしまい、思春期を迎える頃から不快な気分に陥ることがあるのではないかと危惧し、やや複雑な心境。

 「孤独に生きる男は長生きしないが、女は孤独なほうが長生きする。男には女という支えが必要」はいい得ている。解説者のいうとおり、作者のお言葉はいちいちご尤もというほかはない。


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