手の多様性/齋藤篤著

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書評:ためいき色のブックレビュー-手

 「手の多様性」 齋藤篤 近代文芸社 ¥1500+税

 副題:魚からヒトへの軌跡

 帯広告:手が語る、生命の歩んだ道

 著者は整形外科医であり、本書の内容は専門的で、完全な学術書。

 数々の水中動物や陸上動物を例に挙げ、それぞれの手の外見や骨のありようを図示し、あわせてそれぞれの生活実態と機能についても懇切に解説しているが、多発する専門用語にしばしば立ち往生させられる。

 学んだことのなかに以下がある。

*鯨類の鰭(ひれ)は4本の骨だが、アザラシやジュゴンは5本の骨で、殊にジュゴンはヒトや猿の手にそっくり。

*アザラシやアシカは形態的にも分子生物学的にも、データをベースとした系統発生に関しては陸上の熊やイタチ類と姉妹関係にある。

*カメレオンは世界に157種存在するが、大型のカメレオンは小型の哺乳類や野鳥を舌で捕獲して食べる。

*馬の前肢は1本指だが、ときに多指症が存在する。

*1960年以降、日本の猿に奇形の手足をもって生まれる猿が見られるようになった。遺伝ではなく、食料とする農産物の農薬に原因があることが示唆されている。

*16世紀に日本を訪れたポルトガル人宣教師のルイス・フロイスは豊臣秀吉と面会した折りの手記を残しているが、その印象を「背が低く、髭が薄く、目が飛び出、容貌は醜悪、片手の指は6本」と記している。加賀の前田利家も「秀吉の指が6本あった」ことを記述した資料を残している。

 秀吉の子孫の遺伝子には多指症の情報が残されている。

*多指症はヒトの場合、手なら拇指側に、足なら小指側に出るケースが多い。

  また、血の濃い人種に多発する傾向があり、民族的には東洋人に比較的多い。

*ピカソの絵のなかの人物にも6本の指が描かれている絵があるし、日本の古い彫像や壁画に描かれた人物にも同様の事実が確認されている。

*労働中に指を欠損することがあるが、労働災害が保障する金額には指によって差異がある。また、時代によっても指の重要性に関して認識に相違がある。拇指、人差し指、中指がモノを摘むために必須の指で、長いあいだ、この三指の値段が高かった。

*ヒトの握りこぶしは黄金四角形。

*人間の手の指が5本に安定した理由は進化と発生の関係で未解明。

 本書は読みきるのに時間はかかったが、それなりに面白かった。


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