手紙/東野圭吾著

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手紙

「手紙」 東野圭吾著  文春文庫
2001年7月文庫化初版

 

 本書は6年間弱で100万部を売ったベストセラーである。

 ベストセラーとか、受賞作とか、世間に名の知れた本を意図的に避けてきた私としては異例の選択だったが、理由は単純で、「手紙」というタイトルに惹かれた。以前、同じ著者の「白夜行」を勧められたことがあったが、自分は推理小説には「つくりごとが多すぎ、それが鼻について読みきれない」といって断ったことがある。

 読了後、本書が売れた理由は即座に理解できた。

 物語が単純で、複雑な部分がなく、同じテーマを軸に、人間心理を直線的に展開させ、よけいな色づけを一切断(た)ったところにあること。読み手が予測できることが、予測通りに起こり、予測通りに解決し、予測通りに新たな問題に出遭う。にも拘わらず、一つ一つの場面に胸をはらはらさせる部分をちりばめたのは、作者の技量というしかなく、ある意味で、漫画的な展開に相似するものがある。

 ただ、ストーリーの最終場面がやや凡庸で、社会の冷淡さがここで終わってしまうかのような、しめくくりに甘さが残ってしまい、私としてはもっと非情な終わり方を期待していた。

 本書を読みつつ、常に脳裡にあったのは、現代を生きる人間の先祖をたどったとき、どの人間にだって先祖のだれかが人殺しにかかわったであろうことだ。と同時に、被害者でもあったことだ。


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