文明の衝突と21世紀の日本/サミュエル・ハンチントン著

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「文明の衝突と21世紀の日本」 サミュエル・ハンチントン(1927年生/アメリカ人)著
訳者:鈴木主税   帯広告:日本は孤立するか?
原題:Japan’s Choice in the 21st Century(1998年アメリカで初版)
集英社新書  2000年1月初版

 

 1.本書は国際政治の将来を形成していく傾向について論考したものであり、結論的には「現在、出現しつつある世界の力の構造はUni-multipolar system(一極・多極体制)と呼ぶべきものであり、つまりはアメリカ対各地域のリーダーシップをとる国々との関係、力の構造が超大国と対立化傾向をつくりだすのではないかという内容。

 2.人類はかつて祖先、宗教、言語、歴史、価値観、習慣、制度によって自国を定義、認識し、その上で権力と安全保障と富を追求していたが、今日では文化的な嗜好、共通性、異質性が要因となっての国家意識が強く、世界の主要文明の一つとして分離されている。西欧、東方正教会、中華、日本、イスラム諸国、ヒンドゥー、ラテンアメリカ、アフリカの各文明がそれらである。

 3.21世紀には、西欧文明とイスラム文明に台頭してくる中国文明が世界の三大潮流となり、互いに対立的な関係に発展するなかで、ロシア、日本、インドなどがどの程度まで協調できるかが問題となる。

 潜在的に最も危険な紛争はアメリカと中国との間に起こるもので、これが対立となるか、和解となるかで、将来の世界平和を左右する中心的問題。

 4.イスラム世界は人口の増加が激しく、2025年には世界人口のほぼ30%を占める可能性があり、こうした問題と平行して、イスラム教徒によるイスラムへの厚く熱狂的な信仰の再燃(キリスト教の世界で神は不在だと考える人が増えている実態とは真逆の状況を呈し)、モロッコからアフリカ北部、中近東、インドネシア、フィリピンの一部までを含むイスラム教圏に紛争が絶えない。人口爆発が多くの若年層を激増させているが、歴史的にこの世代の人口が20%を越えると社会は不安定となり、暴力や紛争がエスカレートする傾向がある。

 5.唯一の超大国として、アメリカはまるで一極システムであり、おのれが支配者であるかのように振る舞い、自国の原則、習慣、制度の普遍的な正当性を誇示、それを他国に押し付けようとする。そうすることで、アメリカの未来ははますます孤立する傾向を示すだろう。かつて、アメリカの湾岸への出現は湾岸地帯をソ連の脅威から守ったが、以後の出現を湾岸諸国はいずれも必ずしも歓迎していない。また、アメリカは世界の問題は自分たちの問題と捉え、世界はアメリカのリーダーシップを求めていると考えているが、標的にされているそれぞれの国は問題は自分たちの問題であって、アメリカに介入されることを求めてはいない。

(アメリカは自画自賛の国である)。

 アメリカ国内のコンセンサスによれば、政府の思考に同調するのは僅かに13%で、74%は他国と協力して大国としての役割を果たすべきだと考えている。

 6.今後、チャレンジャーとして台頭するのは中国とイスラム諸国であり、そこで重要な位置にいるのが、揺れる国家としてのロシア、日本、インドである。東アジアでは中国のビジネスが日本と韓国を除いた国々すべての経済を牛耳っている。日本を中心にできないのは、日本が文明として孤立しているから、他国との相似がないからだ。

(日本が中心的な存在となれないのは、偏に、大戦で負けたこと、以後軍事力を放棄したかのような法律が存在することで発言力を喪失したことにある。もう一つは、日本人がアジア諸国の多彩な文化を理解していないし、理解しようともしないことに原因がある)。

 7.固有の文化をもつ日本は他の文明に対し敵意をもつことがないばかりか、親近感をもつこともなく、自国の経済繁栄を至上のこととして外交政策を遂行しようとしている。

(ことに宗教的な偏見をもたない面は世界文明との融和を図る上で、なんらかの力になり得る。ただ、中国が一つの文明を装ってはいるが実際にはそうではないのに比べ、日本はまったく一つの文明でできあがっている。島国であったための奇蹟的な現象)。

 日本は明治時代にまずイギリスと同盟し、ついでドイツ、イタリアと同盟、戦後はアメリカと同盟してきたが、いずれの同盟国にとっても、日本という国は理解に苦しむ相手だった。日本が将来関係が強化されそうなのは中国であり、一方でアメリカとの関係を無為に帰する挙には出ないだろう。中国、日本、アメリカの三国の相互関係こそ東アジアの政治、平和構築の核心であり、安定の要諦である。

 世界における言語の比率は人口の多寡に強く影響される。以下は1958年と1992年との比較:

 アラビア語  2.7% → 3.5%

 ベンガル語  2.7% → 3.2%

 英語     9.8% → 7.6%

 ヒンドゥー語 5.2% → 6.4%

 マンダリン(中国語) 15.6% → 15.2%

 ロシア語   5.5% → 4.9%

 スペイン語  5.0% → 5.1%

 8.(第一次大戦の結果、トルコが領土化していたパレスチナ地域を放棄させ、そこにイギリス、アメリカのバックアップを得て、シオニズムの最終的な目標だった、イスラエル建国がなったことは知っていたが)、その後、ギリシャがトルコの一地域を侵略し、数年間にわたり居座ったこと、トルコは長年の敵国だったソ連の支援を受けて領土の奪還に成功したという歴史は知らなかった。

(ただ、トルコはイスラム教国でありながら、かつて「政教分離」を憲法に記し、選挙も男女平等を実現させ、スカーフを女性に常時着用する義務のないことを決めた大統領が存在したが、現在はこれに反対する原理主義者がデモをくりかえす一方で、昔からの伝統を守ろうとする側とのあいだに紛争に近い状態にあることが最近のTVが報道している。トルコは地理的な位置からいっても、「西か東か」と問われる地点に存在し、従来、東西の架け橋になってきた経緯には消しがたいものがある。トルコが原理主義的なイスラム教の一国になるか否かは、西欧諸国にとって見逃せないところ)。

 9・エリツィンはかつて、「将来のロシアと西欧の関係は冷たい平和に似たものになるだろう」と言ったが、それ以外にも、貿易戦争、擬似戦争、不安な平和、問題の多い関係、激しいライバル、競合する共存、軍拡競争なども考えられる。(化石燃料に依存するあいだは争奪戦も在り得る)。

10.イスラム諸国は教徒内部の相違に拘泥し、内部抗争をくりかえしていたが、アフガニスタンでの戦に勝ったことと、アメリカの過剰なイラクへの反目による戦争とが、かえってイスラム諸国を一本化させ結束させる結果を招いた。(ためにOPECを脱退する国が出てこず、石油の高騰に歯止めがかからない)。

11.アジアには中国の勢力が強くなるにつれ、ロシア、アメリカ、インドなどがバランスをとる努力を強める傾向がある。中国の勃興は中核国家を含んだ異文明の大戦争を惹起する可能性すらある。

(私見だが、中国は他文明諸国といざこざを起こす前に、少数民族の不満をどう抑制するかに追われ、あわせて外国の著作権をそのまま流用する手法への国際的批判も高まり、産業廃棄物の処理について適切な手法をとることへの外国からの要請にも応えなくてはならず、これまで外国に輸出して伸びてきた経済も、中国産品の粗悪さが露呈されたため、輸出は減る方向にある。また、中国に工場を建設した外国企業も、賃金の高騰により、他国へ工場の移動を始めた企業もあり、これまでのような高い水準の経済効率を将来にわたって継続できるかどうかには疑問がある。さらには、西地域の砂漠化の問題もあるし、海岸寄りの各都市の富裕層と山側の農民層との巨大な経済格差も大きな問題の芽の一つ。もう一つの可能性としては、現首脳らが反乱によっていっぺんに壊滅する可能性すら否定できない)。

12.(本書は英語版で1998年に書かれているため、湾岸戦争には触れているが、アメリカのイラクへの侵略戦争の詳細については触れていない。イラクが隠しもっているとの確信に基づいた戦争だったが、化学兵器はおろか核の一辺すら発見できず、世界から顰蹙を買った。あげく、現地の治安は悪化する一方であり、自爆テロが継続し、アメリカ兵も数千人もが犠牲になった。兵士をさらに増強することによって軍事コストは上昇するばかり。ラムズフェルドが戦争は短期間で終わるとした目論見が見事に外れた)。

13.アラブの世俗主義者、民族主義者、原理主義者、ヨルダン政府とパレスチナ人、PLOとハマス、イランとイラク、一般的には反体制派と政府などの関係だが、同じ宗教を持つもの同士の抗争は長くは続かない。(2009年時点ではなお続いている)

14.争点となる領土が一方または双方にとって歴史やアイデンティティの感情に強く訴える象徴的存在であり、侵すべからざる土地の場合、これによって引き起こされる紛争には暴力的で醜悪な様相を呈することが多く、当事者双方が殺戮、テロリズム、レイプ、拷問などを躊躇しない。ヨルダン川西岸、カシミール、ナゴルノ、カテパフ、ドリナ渓谷、コソボ、エルサレムなどがその例、内部紛争は国家間の戦争の6倍の長期におよぶ例が多い。むろん、これらの紛争によって、多数の死者、難民が出ることは否めない。

15.西欧が明らかに他文明と異なっている点は1500年以降に存在した他のすべての文明に圧倒的な影響をおよぼしたこと。世界的に広がる近代化と工業化の先陣を切ったことである。

(西欧が圧倒的な影響を世界におよぼした原因は、偏に、国境がイギリスを除き、互いに接していたために、相互に切磋琢磨せざるを得なかったこと、過去には幸運にもローマ帝国とギリシャ文明をもったことが根っこにあり、それが科学的思考を生み、ルネサンスを可能にし、大航海時代を迎えさせたのではないか。海に隔てられたイギリスも、ドーバー海洋は僅か30余キロである)

 作者は「どんな宗教にも人道や道徳に触れる共通の特徴があり、人類が世界文明を発展させるとすれば、個々の文明の共通するところを拡大し、多様性を許容し、認識しあうことではないか」と言う。

 この数万年、人を殺すための兵器はすばらしい進化を遂げたが、人類の知恵に進化はまったくない。数万年前から今日まで、地球上のどこかで殺し合いをやっている。人類に誰をも納得させ得るような共通性も、手法もあり得ない。人間が自己本位であるように、国も国本位であり、近く予定されている洞爺湖サミットでの地球温暖化対策への、万民が納得できる合意など取り付けられるはずがない。


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