日本の技術(わざ)は世界一/毎日新聞社編

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日本の技術は世界一

「日本の技術(わざ)は世界一」
新潮OH文庫 2001年3月初版

 日本が技術大国であることは周知の事実だが、かつて毎日新聞経済部が96社をピックアップし、何が国内外で大きなシェアを得ているのか具体的に説明したのが本書。

 ただ、2001年当時の技術開発についての説明であり、この世界は日進月歩、技術革新は加速度的に展開している現実から推察すると、本書にある技術が今現在はどうなのか、即断できない面は否めない。毎日新聞社が「その後の96社」とでも銘打って、あらためて調査してくれるとありがたいのだが。

 本書が採用した96社はそれぞれの分野で名をなし、シェアを拡げ、収益に結びつけてきた企業ばかり、きわめて魅力的な存在であることは、むろん否定できない。

 つい最近も、TVで世界一固いコンクリートや、護岸工事に使うコンクリートの風景破壊を防止するために、草や木が生えるコンクリートや、水に浮いてしまうコンクリートなどが放映紹介され、本書に登場しない企業でも、世界に負けない物作りに発想を柔軟にしつつ精力を傾けている企業があるのだということを確信した。また、ナノテクノロジーで極小のロボット開発に成功し、これを人間の血管や内臓にまで送り込んで、医療に革命的な手法を開発しつつある企業も紹介された。

 本書のなかで、とくに脳裡に残った部分を紹介すると、

1.東洋紡が世界最強のザイロン繊維の製造に成功、米国のデュポン社のつくった「ケプラー」の二倍の強靭さを誇り、これが中四国を架ける橋梁に使われたこと、米国では軍隊用防弾チョッキにも採用されたこと、いずれも「あのバレーボールの東洋紡が?」という驚異とともに、研鑽努力した姿が想像される。

2.日本アルミットは高性能のハンダづけを得意分野としていたが、電子回路や電子機器を製造している企業はどこもハンダづけの不具合から起こる腐食などで永続性に欠ける点に困っていた。そういった現状を知り、腐食を防ぐ工夫をし、製品づくりに成功、売り込みにかかったが、日本国内の企業は見向きもせず、いきなり米国のロッキード社に社員を派遣してセールスをしたところ、あっという間に採用が決定された。

 ロッキードが認めるのならということで、日本の各企業も採用に踏み切った。(日本の技術が高評価されてきた経緯のなかには米国人の率直で偏見のないチェック手法に依存した分野は少なくない。トヨタ、ホンダ、日産などがアメリカで売れ始めたきっかけはアメリカ人消費者の「良いものを安く買う権利がある」との心構えで、GMをはじめとするアメリカ自動車産業界が「バイ・アメリカン」を標榜しても、日本車の売れ行きを止めることができなかったことと無関係ではない。だいたい、日本人芸術家にしても、音楽家にしても、日本で評価されるのは決まって欧米で賞を得てからであって、この国の批評家のレベルの低さを痛感させられる)。

3.過日、ノーベル賞に輝いた「スーパーカミオカンデ」に浜松ホトニクスがからんでいたことは初耳だった。宇宙の遠い星からやってくる微弱な光をとらえることを同社が工夫、製造した機器は1万2000個の20インチ光電子増倍管で、これが癌を早期に発見できるPET(陽電子放出断層撮影)装置の開発をも誕生させた。

4.東京パーツ工業の「携帯電話用バイブレーター」は国内シェア100%。

5.ニッポン高度紙工業の和紙を利用しての絶縁体の紙は国内シェア95%、世界シェア70%だが、特許すらとっていない。理由は「世界のどの企業もこれを真似できない」との自信から。

6.地雷には上空から落とすタイプの色彩を帯びた蝶の形をしたものがあり、子供たちが手を触れると信管が爆発、指先が吹き飛び、人体を腐食させる液剤が飛び散る仕掛けになっている。これを知って、ジオ・サーチはプラスチック製のものでも金属製のものでも探知できる「マイン・アイ」を製造。仕組みは地下にある地雷を映像化する方法。これには探知機の頭脳部分を日本IBMが、センサーはオムロンが、液晶画面はシャープが、全体のスタイルは来夢がと、先端を走る日本企業が技術協力した結果で、6秒で位置や材質を解析してしまう。2001年からカンボジアで実用化に入った。

7.ニューパワー(企業)は携帯用の風力発電機の製造に成功。

8.味の素は最近個人家庭の食卓にはあまり見られなくなったが、現今ではアミノ酸の製造技術が医薬、栄養食品、化粧品、飼料などに領域を拡大している。(バイオロジーは日本のお家芸ともいえる得意分野。今後も、延長線上には新発想に基づいた色々な新発見があり、世に貢献することが推測される)。

9.オリンパスが内視鏡で世界一のシェアを誇っていることは知っていたが、これが古墳の内部調査に効果を発揮していることは知らなかった。

10.資生堂の研究員が米国ハーバード大学皮膚科学研究所でレーザーによる顕微鏡を使い皮膚の健康をつかさどる表皮内免疫細胞「ランゲルハンス細胞」と脳につながる神経細胞の末端が触れ合っていることを世界で初めて発見。「恋をすると肌がきれいになる」秘密を解いた。

11.寶酒造がバイオテクノロジーを使って癌やエイズを制圧する遺伝子治療に注力、2001年では臨床実験の段階。(バイオのネタは酒造会社に「発酵現象」を使ったアイディアが幾らでもあるのでは)

12.テルモが心臓の手術時に必要となる「人口肺」の製作に成功したとあるが、アスベストで肺が使いものにならなくなった人や肺気腫になって肺胞が空気を吸えなくなった人の肺を交換する「人口肺」は製造できないものか。

13.ミツバチが長距離飛行できるのも、乾燥シイタケが水で戻るのも、生物の細胞内にある「トレハロース」という物質のおかげ。「復活の糖」とも呼ばれる。(昆布、帆立貝、アワビなど海産物にも、水で戻る性質がある)。

14.ピンポンの球は従来の直径38ミリから40ミリに変更され、時速150キロのスマッシュスピードも5-10%は遅くなった。(かつてゴルフボールがスモールから全面的にラージに変更になったケースと同じで、打つ道具が良くなると、球を大きくしたり重くしたりする)。

15.富士写真光機のテレビカメラは120メートル離れた捕手の仕草も微妙な表情も捉える。世界最高倍率の70倍までアップすると、モニター画面は捕手の上半身で一杯に埋まる。放送用カメラレンズで世界シェアの50%以上を占めている。一方で、1000分の1ミリを超える微細な世界、「サブミクロン」を可能にしてもいる。デジタル家電の普及はフィルム「写るんです」を4000万個の生産体制で世界一。

16.ミツトヨの1000分の1ミリまで測れる精密測定工具は国内90%、世界40%のシェア。光を使った計測機器が出回るようになっているが、技術上の確実さではどこにも負けない。

17.クラレのプラスチック素材はマヨネーズ容器、ポケットモンスターの風船、GM車のガソリンタンクにも使われている。EVOH樹脂と呼ばれ、気体を通さない高度な遮断性がある。最近では米国のビッグスリーが使って自動車の軽量化に着手。クラレは新たにベルギーに拠点を置き、欧州進出を図る。(ただ、プラスチックにはそれ自体が本来的にもつ性質、腐敗しない、燃やせば有毒ガスを撒き散らすという、ただならぬ欠陥があり、今後プラスチックの使い方はもとより、あるべき姿にも鋭いメスが入る可能性は否定できない)。

18.大英技研の工夫製造した春巻の製造機は1時間に2700個という驚異的な製造力を誇り、世界のシェアは100%。(シャープから独立した人が起業した会社)

19.自動車1台の部品数は3万。結ぶ、束ねる、挟むという形で収まっているが、これに寄与しているのがニフコ。

 本書を読んでいて、最近中国に工場を開く日本企業が増えている事実に鑑み、技術の特許も、著作権法も無視され、技術を盗まれ、往生するケースが頻出している。そのうえ、過去はレア・メタルの供給国だった中国が世界中からレア・メタルを輸入する立場に逆転してもいる。人口が多く、人件費が安いというだけの理由で中国市場に拠点を置く手法には多くの問題、難点を包含、危惧を禁じえない。

 物づくりの面白さを知る機会がいまの若い人にはないけれども、最近ではこれに興味を示す女の子が増えているのが心強いとはデンソー工学の話。

 最後に岩手県立大学学長の言葉。

「偏差値教育は人間の多様性を無視した最悪の手法。アメリカの三流大学の真似に過ぎない。理解せずに、ただ暗記させて進学を援けるという考え方が教師にあり、これだと画一化を目指す教育になってしまう。人間をロボット化してしまっては創造性の芽を潰してしまうだけ。本当の発見は定説や常識に反抗する、疑うというところから始まる。今の教育では大器晩成は期待できない」

 日本人にはむかしからの特質として「職人気質」という遺伝子が連綿として受け継がれてきた。そういう気質が対象がどんなに難しいものであっても決してギブアップせず、工夫に工夫を重ね、本書に紹介された世界的な技術、発見、製造に結果しているように思われた。

 上記しなかった企業にも、世界を圧倒する技術が多く紹介されており、本書を読むことで日本人の職人気質の遺伝子が受け継がれていることを知り、日本経済はまだまだ大丈夫といった安心感をもたらしてくれた。

 ただ、しばしば新聞種になる粉飾決算とか、癒着とか、談合、賞味期限や産地の虚偽とか、毒物を含む雑貨や食品の輸入とか、そういうシラけたニュースだけには接したくない。


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One Response to “日本の技術(わざ)は世界一/毎日新聞社編”

  1. hanachan-234 より:

    これは 日本人にとっては うれしい本です。
     

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