明治撃剣会/津本陽著

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明治


「明治撃剣会」 津本陽著  文春文庫

 ちょんまげ時代の武士(もののふ)気質が残滓のようにある明治期に舞台を置いた「剣」の話は、それがゆえに一層の迫力をもって迫ってくる。 時代設定のみならず、殺陣表現にも斬新なものがあって、感嘆。

 当時の士族の家には代々伝わる刀が存在し、木刀や竹刀を振るうのとは、次元の異なる世界があることを認識していたであろう。そのあたりの機微をこの作者は活写している。

 屈辱に堪えて生きるのなら死を選ぶ。他人から恥辱を受けたとき、死を賭してそれを償う。恥辱を受けたまま日を送るのは生きながら死ぬことだ。 私の世代の男なら、こういう言葉にぐっとくるものを覚え、首肯する。

 あらためて思ったことは、「人を刀で斬る」ことの難しさである。

 三島由紀夫が自衛隊オフィスのなかで切腹自殺をはかった際、剣道では卓越した腕前の仲間の一人に介錯させたが、三島の細首一つ斬ることに難渋したとは、当時の週刊誌が伝えていた。介錯を依頼したこと自体、その男の腕を見込んでのことで、藁人形、大根、獣の肉などで練習したはずが、現場に挑んで慌て、オタオタしたといったところだろう。

 本書はそんなことまで想起させる内容だった。


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