本当にあった戦争の話/広田厚司著

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戦争の話

「本当にあった戦争の話」 広田厚司著
光人社NF文庫   2006年6月初刷

 

 第二次世界大戦中の西欧を舞台として現に起こったエピソードを、「諜報」「戦場」「政治謀略」の三篇に分類し、トータル50話を収めたもの。

 私が個人的に最も感銘を受けた部分は、実は上記した本文三篇のなかにはなく、「まえがき」の次の部分だった。

 米軍がライン川を超え、ベルリンをめざし進撃中、ある村に至ったとき、米軍の一兵士が突然「ママー、ママー」と叫びつつ、白い壁の家に飛び込んだ。その兵士はドイツ生まれだが、16歳のときに親戚を頼って米国に渡り、以後市民権を得、米国籍をとり、この大戦下、兵士となってドイツにやって来たのだが、白い壁の家は彼の生家だった。たまたまキチンで洗い物をしていた母親は米軍の軍服に身を包んだ若い男が、11年前に我が家を離れた次男であることに気づき、仰天、抱き合って互いに涙したとの話であり、「本書にはこうした心温まる話がごまんとあるんだろう」と胸膨らむ思いでページを繰った。

 ところが、結果としては、私はこの「まえがき」に感動したあまり過剰な期待を抱いたらしく、望むような内容の話には出遭わぬまま読了してしまった。とはいえ、それぞれのエピソードにそれなりの面白さがあったことは否定しない。

 実話とはいいながら、戦時中の話を聴取し、資料を収集して書くということには大変な苦労が伴うこと、にも拘わらず出来栄えとしてはこの程度で、報われない仕事に同情した。

 むしろ、著者がいうように「歴史の脇道散歩といったレベルで気楽に読む」ことのほうが当を得た読者サイドのあり方なのであろう。

 ただ、先進国が密集した地域での大戦というものの実態、ことに何十万人という人間がスパイとして各国に入り乱れて活動し、同時に、一国の指導者の側に立つ人間ですらスパイである可能性が否定できないという事実には唖然、呆然という思いだった。

 ユダヤ人がいう「人間は煩悩の生物であり、悪事から縁を切れないからこそ、神を想定し、神と契約して身を慎むことが必要なのだ」という言葉が蘇った。(「ユダヤ人の歴史」/2005年8月書評)から。


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