楢山節考/深沢七郎著

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

narayamabushikou

「楢山節考」 深沢七郎著 新潮文庫

 

 若いときから何度も読んだ本だが、熟年になってあらためて再読した。

 何度読んでも胸に迫るものは、物語の展開の良さもあるが、崇高なまでの老婆と、母への愛情をいっぱいにもつ息子を、登場人物相互の距離にとらわれずに、まるで俯瞰するかのように描く作者の姿勢にあるように思われる。が、同じ著者の他の作品、たとえば「月のアペニン山」「東京のプリンスたち」にくらべ際立っており、この事実は民間に伝承されてきた「姨捨伝説」を踏まえたことで出色というより、突出した出来に結果したのかも知れないなどとも思った。

 長野県の国訛りがまたよく、ストーリーにマッチしていて、それぞれの人間の味が、峻烈に、にじみでている。

 当時、「この人はこの作品で足れり」と正宗白鳥が評したというが至言。

 同書にある「月のアペニン山」は、「楢山節考」あるがために、価値的にも、印象面でも、稀薄で、ピンとくるものが足りない。 もう一ついえば、狙いが読者にも事前にわかってしまい、それが感興を減じてしまっている。 「人間関係を風景としてみる」のがこの作者の本領だと伝えているが、それならそれで充足感がいまいちなのが残念という気がする。

 ただ、この「楢山節考」は、日本で生まれた古今の名作の一つだとの評価は消えない。


前後の記事

«  (前の記事)

(次の記事)  »

現在はコメントを受け付けておりません。

サブコンテンツ