欲情の作法/渡辺淳一著

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欲情の作法

「欲情の作法」 渡辺淳一(1933年生)著
2007年9月から2008年7月に雑誌に連載された「恋愛格差」を改題、加筆、修正。
副題:どうして素直に思いを伝えられないのか。
帯広告:(1)男と女の根源的な違い。それを理解すれば、新しい愛がはじまる。(2)実践的恋愛講座
2009年2月20日 幻冬舎より単行本初版 ¥1100+税

 

 本書は「欲情の作法」あるいは「恋愛作法」というより、「性教育書」である。

 作者が76歳の男性で、本書が読者に想定しているのは若い男女である点、その意図はもとより、まろやかな語り口に敬意を抱いた。むろん、現今、若い人向けのまともな「性教育の書」がないという実態もある。

 (かつて、日本が男性社会だった時代、男は自分の欲望を優先させるばかりで、女性の心理や肉体的な条件などへの配慮が全く欠けていて、結婚後も女性が性の悦楽を体感するまで相当の年数がかかったという例は枚挙に暇がない)。

 作者の奇抜な提言に、「男性は自分の精子をマスターベーションをして採取し、それを顕微鏡で見てごらん」というのがある。「どの精子もオタマジャクシのような形をし、いずれも活発に動いているのが判るが、実際に膣の奥に入ることができ、子宮まで達する精子はたった一個であり、他の億に近い精子は膣から追い出され、抹殺される運命にある。この精子のありようは、男の性をよく表現しており、男は女に選ばれる性であり、しばしば振られることを覚悟しなければならないことを暗示している。だから、男は女に振られることを恐れてはいけない」と。

 その代わりに、「男は『二兎を追うものは一兎をも得ず』などという諺などに拘泥せず、同時に三兎でも、四兎でも追ってかまわない」との助言には、ただただ納得。

 「膣に挿入する側と、挿入される側とが性に関して根本的に異なる心構えをもっているのは理の当然であり、男性は若いときから勃起したペニスを挿入したい、射精したいという一点に欲望が集中するが、女性は性の経験のないとき、あるいは未だよく判っていないとき、性的な悦楽を感じることはなく、性的体験を重ねることによって、男性側のリードの良し悪しにも影響されつつ、徐々に目覚めるという過程を踏む。つまり、男と女とは性感へのペースが違う」

 (女が性に不慣れで羞恥を顔にも仕草にも出しているあいだは、男も満足しているが、女が慣れてきて、性に貪欲になり、恥じらいを忘れるにつれ、皮肉にも、男は同じ女を相手とすることに飽きがくるというケースもかなり多い)。

 「男が女に求めるのは男にないもので、それは清楚である。清楚な女性が崩れるからエロスになるのであって、だらしのない女が崩れてもエロスにはならない」

 (男にはしばしば学校の女性教師や女性医師を対象とする性的妄想がある。真面目な顔をしながら、性交時、どんな乱れかたをするのだろうか、ひーひーいう顔が見てみたいと)。

 「また、男のペニスは意外にナイーブでデリケート、女性の振る舞い、仕草、言葉ひとつで萎えてしまうこともあるし、逆もある。また、女性の下着が派手派手なのをみた瞬間に勃起していたペニスがふにゃふにゃに萎えてしまうこともある」

 「性的関係に進むうえでの、男女間に存在するタイムラグを理解しておこう。つまり、男性が勃起するタイミングは常に早いが、女性がそれを迎え入れる態勢、膣が充分に潤うまでには時間的落差がある。とすれば、男性はことを実行するまえに、相手女性に対し、前戯として充分な愛撫に時間をかける覚悟がなければならない。ペニスを挿入しても、相手に痛みを感じさせるようなセックスは最低だと認識しなければいけない」

 「むかしと違って、今は女性上位、少なくとも同等の社会が成立しつつある。とすれば、現今流行している『スローラブ』という、ゆっくり時間をかけた、慌てない男女関係が理想的といっていい」

 (男の性的クライマックスは男同士ほとんど同質で、いわば線香花火だが、女のクライマックスは深く、かつ長いというだけでなく、経験を深めることでさらに変化する。男の側が充分な自制心をもち、器用なテクニックを愛撫にこめたセックスを何度も継続すると、同じ女性の性的感度が高められるだけでなく、それまで感じなかったところまで感じるようになり、セックスというものに関する理解すら変化してしまう。女の性は変貌するといってもよい。つまり、女は楽器であり、男の腕次第ですばらしい音を出すもの。ただ、皮肉なことに、相手の女性が性を知れば知るほど、男はその女に飽きはじめることである)。

 若い男女が読んでおく本として、是非薦めたい一書。文章も軽妙で、難しい言葉は使っていず、あっという間に読みきることができる、理想の「性教育の書」だと思う。


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