死刑産業/スティーヴン・トロンブレイ著

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

「死刑産業」 スティーブン・トロンブレイ(アメリカ人/イギリス在住)著
副題:アメリカ死刑執行マニュアル(The Execution Protocol)
帯広告:(1)米英を震撼させた問題のノンフィクション
    (2)あなたが今年読むであろう最も不快な本
訳者:藤田真利子
作品社より  1997年1月20日 単行本初版  ¥2600+税

 

 「これは人と機械の物語である」から始まる本書は帯広告通り、胸の悪くなる不快な本だった。

 著者は死刑のための機械のエンジニア、処刑に手を下す執行官、監房で処刑を待つ死刑囚、死刑囚の妻、処刑後に死亡宣告をする医師、死刑囚からの相談事や悩みなどを聞く牧師(教誨師)らから一年を越える長期取材を行ったうえでの執筆。

 アメリカにおける死刑はすべて電気椅子によるのだと思っていたが、そうではなく、死刑執行手段は州によって異なることを本書を読むことで知った。

 致死薬注射  29州
 電気椅子   11州
 ガス室     5州
 絞首刑     3州
 銃殺      2州

 致死薬注射は死刑機械製造会社が処刑を最もスムーズに、執行する側にも死刑囚にも苦痛が伴わぬようにとの配慮で工夫、製造された。問題があるとすれば、薬の配合ミス、静脈注射のため血管への挿入ミスが考えられる。

 電気椅子は電極に欠陥があったり、電圧が指示した通りに上がらなかったり、ボルテージ(電圧)とアンペア(電流)とのバランスが悪いと、死刑囚が死ぬまで何度も通電しなくてはならなくなり、人体に火が通って鶏の焼肉のようになったり、余計な苦痛を与えてしまう。最適なバランスは、2,400ボルトの電圧、5アンペアの電流。

 日本は絞首刑だけだが、絞首刑は窒息による緩やかな死を保証するものの、生体は必然的に空気を求めて苦しむため顔面が紫色に変わり、眼球が飛び出し、排泄用の括約筋は制御不能に陥って周辺は臭気に満ち、舌は口から垂れさがる。執行側は事前に汚物への対応索を採っておく。

 ガス室は主に青酸を使うため、ガスが漏れない建造物が必要というだけでなく、事後にガスを大気中に放出して室内に残らぬ工夫を必須とする。処刑して直後に室内に入ると、人体が吸い込んだガスが皮膚から排出されるので、一定の時間をおいてから入室しないと執行官も死んでしまう。ガス室の建造は意外に難しく、欠点のないガス室を第二次世界大戦時にナチが完璧に建造できたか否かには疑問があるという。ホロコーストは確実になされたにしても。

 中国における死刑は銃殺だが、至近距離から拳銃で頭を撃つ。アメリカでは5人のライフル銃殺隊による処刑によるが5つのライフルの中には銃弾が入っていないライフルもある。銃殺刑を採用するのはアイダホとユタの両州。(中国の死刑の特徴は、判決が出てから処刑まで短期間であること。収容する刑務所がどこも恒常的に満員)。

 以上のほか、学んだポイントは以下:

 1.アメリカでは1930年から49年までに、2,951人が死刑となり(1935年は1年だけで195人)、1972年になって、死刑は憲法違反という宣言が最高裁から出てから4年間は処刑はゼロ、以後徐々に増えて、死刑執行は装置機械の製造と売り込みというビジネスチャンスを生んだ。

(被害者の遺族からの要望も無視できなかったであろう)。

 2.「死刑を執行する立場の人間の気持ちを配慮する一方、死刑囚には性能のよい装置で処刑される権利がある」とは、装置メーカーの言葉。

 3.アメリカでは刑務所内の人間が同じ刑務所内の人間を(囚人であれ刑務官であれ)訴訟することがしばしばある。アメリカでは他人を訴えるのは生活の一部になっているが、イギリスではあり得ない。また、イギリスでは1965年に死刑は廃止された。

 4.ミズーリ州では、処刑日、州民の立会人(12人まで)を招くことが可能。家族とは数時間を共に過ごすことができ、処刑そのものは厚いガラス窓を通し、報道関係者を含め見届けることができる。係累と一緒の時が過ごせるとしても、お互いに慰める言葉もなく、冗談を口にできる雰囲気でもなく、必ずしも幸福な時とはなりにくい。

(係累が処刑される場面を目の当たりに出来るのだろうか?)

 5.ある死刑囚の言葉。「人を殺すのに人道的な方法などというものはない」。

(自身がかつて人道的でない手法で人を殺害したという過去があるくせに)。

 6.アメリカは州によって法律が異なるため、同じ犯罪でも死刑になる州と、そうでない州とがある。

(日本における死刑判決は人を殺めた場合に限られるが、アメリカではレイプでも頻度や状況によっては死刑判決がある。とくに、黒人が白人女性をレイプした場合に、逆の場合より重い判決が出るケースが多々ある。また、陪審員に黒人が入っているかどうかでも、判決は異なる。時代を遡れば、馬を一頭盗めばロープでハング(Hang)された)。

 7.アメリカでは刑務所内で殺人が多発する。運動場に入ることには常に危険がつきまとう。刑務所で囚人が同じ囚人や刑務官を殺して死刑囚になってしまう例すらある。

(にも拘わらず、作者は死刑囚と二人きりでの取材を敢行したが、ミズーリ州の刑務所もそれを許可した)。

 8.「いずれ死刑に処されることを知っていながらの毎日には辛いものがある。時が経つにつれて一日単位の希望を紡ぎだすのが段々むずかしくなってくる」とは、一死刑囚の話。

 9.アメリカでは死刑の執行が政治的な駆け引きに利用されもする。クリントンも大統領就任直後に人気とりのために、死刑執行にサインしている。

(日本の法務大臣はサインを嫌がる)。

10.世界194か国のうち、100か国で死刑は廃止されたが、アメリカでは現在でも一年に250~260人に死刑判決がある。

 以上、本書はトータル400ページとはいえ、各ページを上下段に分けているため、文章の総量は相当なもの。

 著者のインタビュー相手は死刑囚、刑の執行者、死刑装置の製作者、夫の死刑に立ち会った夫人などに偏り、心情的、感情的、精神的に負う嫌悪感、障害、ダメージなどに関しては詳細を究めるノンフィクションになっているが、死刑という判決を受けた囚人によって被害を受けた側(遺族)へのインタビューがないため、読者は無意識のうちに「死刑は廃止すべきではないか」という思いに傾く。死刑を廃止したイギリスに在住する作者の意図はそのあたりにあるように感じられた。

 アメリカ人を相手に長期にわたる業務に携わった経験のある私としては、「ペットを飼うとはいわずに、ペットを養子にするという」国柄と、いろんなフィールドで雑駁で荒っぽいアメリカ人気質とは相容れないという印象が恒常的にあるのは事実だ。

 ただ、本書はあくまでミズーリ州刑務所の協力があって実現したのは事実である。

 私個人は死刑廃止には反対の立場にいる。


前後の記事

現在はコメントを受け付けておりません。

サブコンテンツ