氷結の森/熊谷達也著

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「氷結の森」  熊谷達也(1958年宮城県生)著
集英社  2007年1月単行本として初版

 

 日露戦争後、サハリン(旧樺太)と、対岸のアムール川を含めたエリアを舞台に展開する物語。

 元マタギだった主人公は戦争中、狙撃兵として正確無比の腕を買われて活躍、戦後帰還したとき、妻が生後1か月の赤子を抱いている。明らかに、自分の子ではなく、その始末を巡ってトラブルがあり、故郷を棄てて樺太からアムール川へと放浪する。

 舞台を樺太、アムール河としたことは、物語を展開する土地としても背景としても非凡だが、ストーリーの起承転結はきわめて平凡、400ページを越えてまで文字を連ね、一冊の単行本に仕上げるほどの必然性を感じない。むしろ、マタギとしてならマタギ、狙撃兵としてなら狙撃兵、いずれかに焦点を絞って深く書いたほうが成功したのではないかと思われる。主人公の格好のよさだけでは読み手を引っ張ってはいけず、量が多いため、よけい退屈な印象が拭えない。

 なかに登場する、ニブヒ、ウィルタはアイヌの近縁にあり、それぞれが平和で安穏な生活の場としてきた地場にロシア人が、日本人が、朝鮮人が、中国人が入り込んできたという歴史が背景としてあり、大国の思惑や領土的野心に翻弄された歴史がうかがえ、読み手としては、こういう民族にもう少し多くの光をあてて欲しかった。

 文章そのものは堅実で真摯、しっかりしている。一字一句に、助詞の一つ一つに作者の注意深い目が通っている。

 非凡とえいば、本書の表紙。字の力強さと、背景とのバランスは並みのデザイナーやイラストレーターの能力を超えている。私が本書を入手した最大の理由がこの表紙のデザインだった。また、舞台となった土地については、吉村昭の「間宮林蔵」を読んで以来、親しみをもっていたということもある。


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