江戸300藩・殿様のその後/中山良昭著

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江戸300藩・殿様のその後

「江戸300藩・殿様のその後」中山良昭(1953年生)

帯広告:明治から平成まで、大名はこう生き抜いた

  朝日新書  2007年8月初版  ¥780

 江戸(260年間)に、同じ地域に、多くの大名、あるいは小藩が、かなりの頻度で入れ替わっていたことを、本書によって知った。

 もっとも、当時、かれら自身には「大名」という言葉による呼称も「藩」という呼称も使われてはいず、一般には「諸侯」と呼ぶ慣わしだった。

 ただ、明治期、新政府が構築されはしたが、皇室側についた薩長を中心とする新政府の軍隊に、必ずしも恭順姿勢を示さなかった藩(東北に多い)が、一時的な引責を強いられはしても、結局は新しい社会形態を構築するのに参加させ、華族制度のなかに組み入れ、面倒をみることの得策に思い至ったらしい。

 ほとんどの旧「諸侯」らは、明治期、華族に列しただけでなく、貴族議員にも自動的に成り、それなりの生活が保証され、なかには途轍もない年俸を約束された華族もいて、地元に地方銀行を設立したり、博物館をつくって自分の家に伝わる財物を展示して寄付行為をしたり、鉄道を敷設するのに資金を出したり、物産品をつくりあげたり、それぞれの地元に貢献したケースが意外に多い。

 (これには、それまで奉公していた武士団への雇用の機会を提供したことを含めた援助もあったであろう。琉球の王族も東京での生活を強いられ、と同時に貴族の一員に列せられた)。

 (太平洋戦争が終結するまで、華族という身分は保証されていたわけで、一般庶民は「平民」だったのだから、元藩主が地元のために役立つ仕事をしたのは、当然といえば当然だったかも知れない)。

 江戸時代から、彼らの「家」というもの、「家系」というもの、「家名」というもの、「血縁」というものへの執心や意識、あるいは矜持(きょうじ)がいかに強かったかは、男子が生まれなければ、縁者から養子をもらうなどして、家系を絶やさぬように、必死だった様子からも窺われる。

 (もっとも、徳川家康は、家系図をごまかし、先祖は源氏姓を冠したなど、豊臣秀吉を含め、一口に家系図といっても、かなりのフェイク、虚偽申請があったものと推量される。逆に、本物の「源氏姓」を名乗っていい、たとえば、鎌倉期の新田義貞は栃木の新田郷出身であるがゆえに、新田義貞と名乗った、あるいは、足利家も足利という土地の名を名乗ったが、当時の風潮として、土地の名をそのまま姓として名乗ることが多かったらしく、これが姓名が庶民に許されたときにも波及したわけで、いわゆる姓ではなく、「苗字」の原型となった。沖縄の人名が土地の名に由来しているのは、こうした大和の国からの影響であろう。例えば、安室奈美江は安室島(慶良間諸島の一島)からだろう。本人はその島を訪れたことはないだろうけれども)。

 多くの藩には、血縁が途絶えた家もあるが、総じて、昭和、平成まで、人によっては相当な事績を遺した元・大名もいる。総理にまでなったのは、九州の細川家(奥方はキリシタンのガラシャ妃で有名だが、加藤清正がお取り潰しになった後を継いだ)だけだが、適当に利用されて、以後は政界から脚を洗っている。

 本書を読んでいて、あまりに多くの藩侯を収容したため、姓名が現在ではそうは読まないというケースが多く、簡潔にまとめたぶん、読みにくい、混乱する、などというケースも発生する。思わぬ時間がとられるというのも事実。

 とはいっても、これだけの大名の江戸、明治、大正、昭和、平成に至るまで、資料、文献を渉猟した裏舞台が思いやられ、大変な労作であることは理解でき、敬意を払いたい。

 一つ、学んだのは、仙台の伊達政宗のことで、この「伊達」は「だて」ではなく、当初は「いだて」と読んでいたということで、時の流れのなかで変化したらしい。

 別に揶揄するわけではないが、本書を読んでいて想起したのは、、かつて同じ職場にいたMさんのことで、ある日、Mさんが、「うちは300年続いている家なんで、嫁をもらうにしても、誰でもいいってわけにはいかないんですよ」との発言に、私は即座に、「えぇー?あんたんとこは、たったの300年かい! おれんとことは、猿の時代から数百万年の家系だぜー」と返したら、Mさん不愉快千万という顔をして、そっぽを向いた。

 先祖に偉人がいたとか、傑物がいたのかではなく、「今のあんたはどうなんだ?」「あんたの人生は満足のいくものなのか?」ということではないのだろうか。決して、偉人や傑物を評価するわけではなく、自分が自分の人生に充足していれば、それで十分だと私は思っている。だいたい、天才に二代続いた例はない。

 歴史を顧みて、過去の散歩道を歩いてみるのも楽しいし、面白い。


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