沈まぬ太陽/山崎豊子著

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沈まぬ太陽

「沈まぬ太陽」 山崎豊子著 新潮社  単行本

 

 主題は明らかにかつての日本航空を舞台としたサラリーマンの悲哀ドラマを描いたものだが、「元国営だった大企業を相手に、よくも、ここまで踏み込んで、書き進めたものだ」という印象をもった。

 当初は、ある左遷された男への同情、惻隠の情からスタートしたといったイメージだったものが、遠慮会釈なく企業の社外秘部分にまで踏み込みつつ、中篇へと展開、そして完結に向かうまでの、筆者の旺盛な聞き取り、調査、執念には驚嘆を超えて畏敬すら覚えた。

 登場人物には私自身が旅行業界にいたために知っている人物もあり、一層の親近感と、憎悪感をもちつつ、この長編を読みきってしまった。かつて、国営であるが故に、国営であることを鼻にかける、「鼻もちならない」やつがいたことも事実だが、逆に外国の都市に存在するエイジェントをセールスで回るうえで同行してくれたり、車を手配してくれたり、少なくとも外国では世話にもなった。

 本書がこの企業に与えたマイナスインパクトには測り知れないものがあるだろうし、裏舞台には相互にいろいろな揉め事もあったに違いないと推量するが、国が管理していたものが民間に委託された会社というものが、どっちつかずに陥って、なかには立場を利用したあくどいやつもいただろうし、ある意味では、日本の官僚の姿をさらけ出している感も否めない。端から見ていて、いわゆる飛行機に搭乗するクルーたちの高給はもとより、ハイヤーを使っての送り迎えというセレブを気取っているとしか思えない傲慢な態度、それがあたりまえだと思っている成り上がり根性が透けて見え、不愉快きわまりなかった。

 初めて読んだのは外国で仕事をしていた6年まえにもさかのぼるが、いまだに書店で本書を見かけると、懐かしさとともに、新潮社が本書に賭けたパワーすら感じて、言葉がない。第一巻の「アフリカ編」が妙に脳裏に残っている。

 それが、結局のところ、経営破綻してしまい、自力更生というプロセスに入り、年金にまで容赦のない処断が下された。自ら立ち上がるには、これまでの温床から抜け出して、一航空企業として国際舞台に打って出るしかないはずだ。

 JALフアンを失わないうちに、軌道に乗せることを祈っている。


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