浮雲/林芙美子著

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浮雲

「浮雲」 林芙美子(1903-1951)著
新潮社  1953年4月初版、これまで182刷  ¥590
1949年から月間誌に3年間にわたり発表された作品

 
 「放浪記」(2008年9月22日書評)が初期の作品で、作者の代表作であるが、本書は48歳で亡くなる直前の作品。

 物語の舞台は戦前のヴェトナムの山林に始まり、日本に帰還して、本土の荒廃を目の当たりにした主人公の女性がたどる有為転変の生き様を描いた小説。

 終戦直後の日本の社会や人心のすさんだ様子が生々しく、鮮明に活写されていて、思わずのめり込むものの、主人公のヴェトナムで関係をもった男への執着心がベースとなる展開には、卑しさ、しぶとさ、狡猾さ、自己中心の言動、あげく別れたり再会したりの葛藤が延々と続く成り行きには次第に嫌悪感と倦怠感が押し寄せてくる。

 解説者は「終戦後の虚無感からの脱出を試みた作品」であり、「この作品には説明のできない、女の悲しみがしみわたっている」と感想を書いているが、私には女の執拗さも、男のだらだらした決着をつけない姿勢も理解を越え、正直にいって「読んでよかった」という内容ではなかった。

 この異常ともいえる男女関係は、作者の育った環境(代表作の放浪記に著述された内容)が色濃く投影されているため、現代を生きる我々の心を掴むには悲惨過ぎると考えるのが正鵠(せいこく)を得た感想かも知れない。

 尤も、「このストリー展開に似た小説を書いてみろ」と言われたら、不可能と応ずるほかはなく、その意味では、他者の真似のできない才能だと評価するのが妥当かとも思う。


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