海のなんでも小事典/道田豊・小田巻実・八島邦夫・加藤茂著

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海のなんでも小事典
「海のなんでも小事典」
道田豊/小田巻実/八島邦夫/加藤茂著
副題:潮の満ち引きから海底地形まで
講談社ブルーバックス  2008年3月初版

 
 著者の大方は海上保安庁に関係していた人で、地球の7割を覆う海に関して、これまで判っていることを懇切に説明した内容である。私個人も海とのかかわりは浅いほうではなく、かねてこの種のまとまった話に接してみたかったというのが読書に至った理由。

 「日本は島国であり、かつ小島を多く所有しているため、世界でも六番目に広い海を領海としてしている。この広い領海権は日本の未来に明るいものをもたらす『未知』を大量に含有している可能性を期待させてくれる」という言葉で始まる内容で、印象からして悪くない。

 以下は学んだこと:

1.世界最深の海はグァム島の少し南に在るマリアナ海溝で、1万920メートルだが、水深が7千メートルを越える深い海は世界全体の0.1%に過ぎない。大半は4千ー6千メートルの平坦な海底で占められ、全体の2分の1に相当。平均水深は約3700メートル、表面的には地球の7割を占めているが、地球の核までの半径は6千4百キロもあり、大気と同じく、海は地球表面付近だけにあるが、海水体積は」膨大な量を誇り、そこに多くの生物を育んでいて、人類に多大な恩恵をもらたしている。

2.赤道直下の海の方が水温は高いが、水深200メートルでは日本の南側近海の方が水温は高い。(この事実は、私がバリ島に在住したとき、真鯛を釣り上げたところ、肉に脂がのっていたことからも納得できる)。

3.ブイを漂流させ、人工衛星でチェックすると、複雑な軌跡を描く。このことは、海流が単純な軌跡で動いていないことを証明している。

4.1980年代に入って、音響ドップラーを利用することで表層のみならず、深海の流れも捉えることが可能になった。赤道で行った観測の結果では、海面では毎秒1メートル以上の速度で西向きに流れているのに対し、水深200メートルの層では逆に東向きに流れていることが判明、これを「赤道潜流」と呼ぶ。

5.深層を含めた世界の海水循環は北大西洋高緯度域(グリーンランド付近)で冬季の冷却によって重くなった海水が起源となり、沈みこんだ冷海水が大西洋の深層を南下、南極圏を経てインド洋、太平洋に広がっている。いずれもそれぞれの海で測定不能なほど緩慢な速度で上昇し、いずれは表層循環に取り込まれていく。ただし、深海循環を含む世界全体の海水循環は再び太平洋からインド洋を通過して大西洋に戻るが、驚くべきことは一周するのに2千年という歳月を要すること。以上はブロッカーの「コンベアベルト」と呼ばれる有名な海図に基づくもの。ただ、地球規模の深層の全体像を把握することはきわめて困難。(宇宙のことが解っているほど、海のことは解っていない)。

5・地球自転の影響のもとで、海面上に一定の風が吹き続けた場合に、海流にどのような影響が及ぶかという問題について、1905年にエクマンという学者が北半球では海面の流れは風下方向から右に45度ずれた向きになり、深さが増すにつれて速度の大きさの指数関数に従って減少した流れは右へ右へとずれていく。つまり、深さ方向に対しラセン状に減衰しながら回転する構造となり、これを「エクマン螺旋」と呼ぶ。一方、南半球では、北半球とは対象的に左にずれる形をとる。(単純に水を上から流した場合、南北半球ではそれぞれ回り方が逆に連動しているらしい)。

6.北太平洋の黒潮は日本東方の黒潮続流につながり、カリフォルニア海流となって南下、北緯10度付近を西に向かって北赤道海流となり、フィリピン東岸に至った後に黒潮の源流となる。この循環のエネルギーは太平洋上を吹く偏西風と貿易風によって供給される。

7.風の影響で表層の海水は沖に向かってながれ、その結果、表層で不足する海水を補うために下層の海水が上昇してくる。この現象を「沸昇」という。黒潮の強い流れの幅はだいたい100キロメートル、深さは数百メートル、流量は数十万倍に相当する。ただし、黒潮百キロメートルのほかに海面が1メートル高くなっているところがある。北半球では高圧部を右に見て等圧線とほぼ平行に風が吹くが、この風が高気圧から低気圧に向かう圧力の勾配と圧力傾度力とコリオリカ(風のベクトルに対して北半球では直角右向きに働く)とが釣り合っていて、これを「地衡風(ちこうふう)と呼ぶ。海の場合、この関係を「地衡流のバランス」と称する。

8.船による海流観測データから海流に伴う海面高度を知るためには海面から十分な深さまでの水温と塩分の分布を測定することで、海水の密度分布を計算し、海面高度を推定することが可能。これを「海流の力学計算」と呼び、古くから知られた推定方法。

9.マイクロ波高度計を搭載した「Topex Posseidon」衛星による海面高度測定は実測値によく一致し、そのうえ、それまで空白域だった海面にさまざまな渦流の存在が映し出され、多大な成果を挙げた。

10.太平洋中緯度のほとんどの海域で南向きに輸送された海水を西端の幅の狭い領域で一気に北に戻しているのが「黒潮」で、その地の大部分の海域で成立しているスペルドラップ輸送が例外的に成立しない海域となっている。こうした流れを「西岸境界流」と呼び、1940年代にストントルという海洋学者によって指摘されていた。黒潮は東に向かって流れていくにつれ一部が南に逸れ、小さな循環流を形成する。

11.「親潮」とはカムチャッカ沖から千島列島に沿って南下する流れが存在し、北海道沖から東北沖に流れる。「親潮」は黒潮よりも弱い流れだが、栄養塩が豊富で、水産資源を育む海水の塊という認識。

12.対馬暖流は東シナ海で黒潮の海水と中国大陸からの流出河川流が混ぜ合わされて形成される。ために、黒潮の影響を受け、相対的に暖かく、軽い水で、対馬暖流は日本海上に浮く形となる。ほかに津軽暖流と宗谷暖流が存在する。

13.1993年の観測によって、フロンは北太平洋中緯度海域の表面より少し下の部分に極大部が存在することが確認されている。

14.「海洋学」と一言で括るが、内容は物理、化学、生物、建築、土木、情報、人文系まで包含する幅広い分野であるため、さまざまな機関が目的に沿って観測、調査を行い、データを蓄積している。海上保安庁、気象庁、水産庁、防衛省、国土交通省などのほか、大学でも個別に、場合によっては協力しあっている。(にも拘わらず、海洋土木の面では、事前の調査、予測が杜撰であり、海流自体を変化させてしまったという例が日本の沿岸の各地にある)。

15.1960年にユネスコに政府間(60を越える国々)海洋学委員会が組織され、海洋データの国際交換が可能になった。日本の窓口は「日本海洋データセンター」が担っている。

16.IPCCでは海面から水深700メートルまでの海水温が1961年から2003年の40年間に0.10度、上昇したことを確認、かつ最後の10年間(1993年ー2003年)の間は、それまでの30年間の昇温より明らかに水温上昇が速くなっていることを観測している。

17.海面水位は過去200年ー300年は、多少の変動を伴いつつ、ほぼ水位が安定していた。それが20世紀の100年間で十数センチの水位上昇が認められている。原因は陸上の氷の融解が考えられる。

18.バルト海沿岸やスウェーデンでは、100年間に50センチ海面が下降し、氷河期に陸地を覆っていた巨大氷河が溶け、その反動で地殻が隆起したとの認識がある。一方、サンフランシスコやハワイでは、一年に一ミリ程度の海面上昇が起こっている。(氷河の減少、融解は、スイスでも起こっており、冬季スキー客で賑わっていたスキー場に閑古鳥が鳴くようになっている。また、ツヴァル共和国での海面上昇は島人に死活問題をもたらしている)。

19.日本で潮汐の大きな地域は有明海と瀬戸内海。広島湾では過去に370センチを経験。また、海域によっては、一日に一回しか干満がないところもある。

20.地球から月までの距離は一般に37万キロといわれているが、自転、公転をくりかえしつつ楕円軌道を描くため、遠近には12倍の差が生ずる。月が赤道上にあるときは自転軸に対称に海面が膨張するため、どこでも1日に2回の高低潮は等しくなり、日周潮は小さくなる。反対に、月が南北に遠去かるときは、月潮不等が著しく、日周潮が大きくなる。

21.英語では満潮をFlood、引き潮をEbb、潮位差をTidal Rangeと一般に言うが、航海者は高潮をTidal Rize、大潮をSpring Tide、小潮をNeap Tideと称している。

22.月による潮汐は地球自転にとっては一種のブレーキともなっていて、これは「潮汐による地球自転の永年減速」と言い、1日あたり5.1x10のマイナス8乗秒ずつ自転が遅れることを暗示するもの。微小な数値とはいえ、10年で0.7秒、1000年で1.9時間の遅れになる。このことは、逆に、数千年前の一日は速く短かったことを示している。3億年前の中生代の一年は387日だったことが計算されている。

23.潮汐波の振幅の中心、すなわち筋になる点には振幅ゼロの海域が存在し、「無潮点」と呼ばれる。太平洋に6,7個、インド洋に3個、大西洋北方に1個しかない。南極海には3,4個あるが、これらの違いは各大洋の潮汐振動に対する「応答犠牲」にある。

24.世界で最も潮位が大きいのはカナダ東岸のファンディー湾。北上する波と南下する波が上下に重なることが原因。

25.「島」であるためには最高水面より高く、高潮でも陸岸が見えていることが条件。

26・「暗岩」とは、最低水面よりも下に在って、常時、海水に覆われ、浸っているところ。

27.「洗岩」とは、ちょうど最低水面の高さに在り、低潮時には波が洗う状態の岩。

28.「干出」(かんしゅ)とは、最低水面と最高水面との間の高さで、低潮時だけ海面から出ているところ。

29.領海は1994年に発効した国連海洋条約によって各国の領海は低潮線から12海里(1.8キロx12)で、排他的経済水域となり、低潮線から200海里に決まった。日本の場合、大陸棚が200海里を越え、他国と境界を接している国はロシア、米国、フィリピン、北朝鮮、韓国、中国、台湾であり、Exclusive Economic Zone(排他的経済水域)の面でも、Continental Shelf(大陸棚)の面でも、互いに問題を抱えている。

30.大航海時代を可能にしたのは「ポルトシ」「ピサ図」と呼称された地図の製作からで、この地図では、方位盤(コンパスローズ」から多数の方位線が複雑に交差し、網状に描かれて、使いにくい面があったが、16世紀後半以降に世に出た「メルカトル図法」のおかげで、現代でも航海者にとってGPS(衛星を使った技術)以外にも有用な地図となっている。

(現在、世界地図上不明な部分は僅かだが、かつては自国の沿岸を測量されることは軍事的利害に直結していたため、他国による沿岸測量は容易にできなかった。そういうなかにあって、日本の間宮林蔵がサハリンを北上、アムール川沿いに大陸に渡った実績は、「間宮海峡」という名前とともに世界地図に残り、日本人が誇っていいことだが、サハリンを領土化しようとの意思を持たなかった平和主義の江戸幕府の心底は不可解というしかない。江戸幕府と異なり、早くから琉球王国に侵入し、奄美大島から南へと順に徴税対象にしていった薩摩藩の領土欲、金銭欲に比べ、徳川政権の穏やかな平和主義が結局は薩摩、長州になす術なくやられ、日本の軍隊の創設から支配にまで及んだこと、やがては太平洋戦争にまではまり込む結果を招いたのだと、私は思っている。当時、サハリンにロシア人の姿はなかったという事実もあり、領土化することは簡単だった)。

31.この国には「全国津々浦々」などという言葉があるが、こういう言葉は世界中にない。

32.現在、日本は海図を総計、約1、300版を刊行しているが、かつて七つの海を支配したイギリスは現在でも、3,400版を刊行している。

33.電子海図の利点:(1)海図に表示される図面を自由に拡大、縮小できる(2)航海者が必要な情報だけに絞って入手可能(3)GPS(Glonal Positioning System)などには船のロケーションをリアルタイムで図表に示し得る(4)危険な海域に対し、ウォッチングシステムが組み込まれている(5)レーダー画像と重ね合わせて表示可能(6)海図に最新情報を自動的に置き換えて表示可能)

34.「日本海」という表示が初めて世界地図に現われたのは1602年、イタリア人の宣教師、マテオ・リッチの作成した「万国地図」であり、日本海の形状や沿岸の地理が明らかになったのは18世紀の終わりから19世紀にかけてのことで、フランス人のラ・ペルーズフ、英国人のブロートソン、ロシアのクールゼンシュテインらが、日本海周辺探検を行ったときのことで、この時期、欧州で作成された地図では「日本海」の名称が一般化し、国際的に定着したものであり、後年、日本が韓国を植民地化したときではなかった。

35.日本では、6千メートルを越える深い溝を「海溝」、6千メートル以浅の溝を「トラフ」と名称を分けて分類している。海溝はプレートが大陸プレートの下に潜りこむ場所、トラフはいわば「海山」あるいは「棚」。

36.海底地形には、海嶺、海台、海膨、平頂海山、海丘、海脚、堆、礁、海盆、舟状トラフ、海穴、海谷、海底谷、長谷、棚、大陸棚、深海平原、大陸縁辺部、大陸斜面、コンチネンタルスロープ、断裂帯、海底崖、海底扇状形、などがある。

37.約2百万年前から現在までに至る第四紀という時代、地球の温暖化と海面変化は、氷期と間氷期とが約10万年間隔でくりかえされた。間氷期は海水量が増大して海面が上昇し、氷河期は海水量が減って海面が低下する。1万8千年前の最終氷期にあたり、海面は水深100-120メートルまで低下したことは大陸棚がその証拠を残している。
(この歴史的事実が一部学者による、地球温暖化に関する楽観説を採らせている)。

38.関東平野では現在の海岸線より60キロ、濃尾平野では35キロ内陸に縄文貝塚が分布し、当時の海岸線はこの付近だったことを物語っている。貝塚の貝殻の年代測定によれば、約6千年前と推定される。

39.静岡県の駿河湾は日本で最も深く、特異な性質をもつ湾。2,400メートルの水深があり、これに次ぐのが相模湾で1300メートル、富山湾が1,200メートルで、いずれも日本では破格の深さ。鹿児島湾が230メートル、土佐湾が200メートルと辛うじて200メートルを越えるだけで、ほとんどの湾は東京湾を含め100メートルより浅い。

40.地球表面がいくつかのプレートに分かれ、毎年数センチの速度で平行移動していることはすでに記したが、いわゆるプレートテクトニクスは海底の地磁気の調査から誕生した理論。地球は大きな磁石だが、地球表層の磁気の強さや磁化方向が場所によって違っている。一つの原因が過去の地質時代の地磁気の逆転によるもの。地磁気の南北逆転は過去に何度もくりかえされており、海底の磁場を示すところが縞模様になってそうした歴史的事実、逆転現象の継続の跡を地学的証拠として、明瞭に残されている。

41.伊豆七島から硫黄島に続く海には世界でも最大規模の海底火山帯が存在する。青ケ島の南、50キロに1953年、「明神礁」が噴火、保安庁の測量船が噴火に遭遇、乗組員31名が命を落とした。この海底火山は1869年に英国船が最初に発見、以降、十数回の火山活動が記録され、噴火、新しい島の出現、消滅をくりかえし、一時は長さ200メートル、高さ10メートルの大きな島に成長したが、1953年の大噴火によって島は消滅し、それ以来、明神礁が海面状に出現したことはない。1998年、99年の調査には、自動操縦可能な無人船を使用し、海底調査をしたところ、明神礁は複式火山の中央火口丘で、直径7-9キロの円状カルデラをもつ火山であることが判明。

42.マルチビームを使った音響測定機を使って測量した結果、1883年、千葉県の房総半島沖には、グランドキャニオン並みの複雑な深浅、尾根や谷が水深1000メートルー4000メートルの海底に蛇行する渓谷さながらに存在することが判明し、同じ海底でも、房総半島沖の海底谷のように浸食作用が卓越する海域の存在することが判った。

43.駿河トラフ、南海トラフの調査の結果、東南海地震の確率は今後30年の間に60ー70%、南海地震は50%の確率を示唆。

44.伊豆、小笠原孤の火山フロントには活動している火山がたくさんあり、そういう海底から噴出する熱水(チムニー)には、黄銅鉱などの鉱物が多量に含まれていることも判明した。他に、金、銀、銅、マンガン、コバルトリッチクラストなどが眠っている可能性を示唆するものであり、海洋開発のあり方次第で、資源に恵まれぬ日本も新たな局面を迎える可能性を否定できない。

 以上、長くなったが、海中の生物、なかんずく、海中有害生物と、その利用可能性などについても触れて欲しかったし、海洋開発や海洋での土木工事が与える周辺海域への影響についても触れて欲しかった。さらには、サンゴ礁の存在、その有用性についても触れて欲しかった。


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