灰色の輝ける贈り物/アリステア・マクラウド著

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「灰色の輝ける贈り物」
アリステア・マクラウド(カナダ人)著
中野恵津子訳 2002年11月初版
新潮クレストブック ¥1900+税

 

 本書には9つの短編(1968年ー1976年までに発表されたもの)が収められているが、どの短編にも色彩を示す言葉はひしめくようにあるものの、読後に脳裏を占めるのはすべてモノトーンの寂しい風景。

 いずれの短編も作者が育ったカナダ東部の、寒冷の僻地、ケープ・ブレトン島、あるいはその近辺を舞台とし、作者がみずから経験した鉱夫、漁夫をベースに物語がつむがれる.。首題は家族間の愛と絆、仕事への誇りの一方で、時代の変化に伴う世代間の求めるものの相違から起こる親子間の心のひずみ、相克、葛藤、離別、そして坑内や海での事故死、墓堀りなど、陰鬱なムードが読み手を寂寥へと引き込んでしまう。

 私はかつて仕事でカナダの都市はほとんど訪れているが、さすがに東の先端にまでは足を伸ばしたことはなく、書中に示された地図で、そこが世界三大漁場の一つ、ニューファンドランド近海を目前にする位置に存在することを認識した。 そして、そこから北東、数百キロの地点に氷で閉ざされたグリーンランドが存在することも。

 作者はスコットランド系カナダ人だが、イギリス作家に特徴的なロジックを追うあまり文体が必要以上にしつこくなることもなく、またアメリカ的な騒々しさ、猛々しさとも無縁で、淡彩的な詩情にあふれ、穏やかで誠実、繊細すぎるほどのタッチがしみじみとした人生の陰影と哀歓とを訴えてくる。古風といえば古風だが、深々とした余韻に充ち、このような佳品に出遭ったのは初めてで、この出遭いの幸運に感謝したい。

 ただ、文体に力みや起伏が希薄なこともあり、しっかり目を据えて一字一句を追っていないと、文自体がデリケートというだけでなく、登場する人物たちの心情や呼吸音も微妙なだけに、見落としてしまう。言葉を換えれば、四輪駆動の車のように、読者を前へ前へと力づくで牽引していく魅力には乏しい。文が微妙というだけでなく、あまりに淡々とした流れにその原因がある。

 さらにいうなら、この佳品が奏でる心象風景をありのままに理解し、感得できるのは、むしろ日本人なのではないかという気がする。正直にいえば、コーカソイドである人物がこのような心にしみじみ訴えてくる作品を創り上げたことに、信じられない思いを抱いた。

 カナダ人とアメリカ人とには、性格にも心情的なものにも大きな相違があり、同じ銃社会であるにも拘わらず、銃による殺傷事件はアメリカよりもはるかに少ない。気候、風土、人種(西はイギリス系が多く、東はフランス系が多い)、などがカナダをアメリカとは異なった文明圏としたのであろうか。カナダはどこに赴いても、英語とフランス語とが並記されていて、かつて東に位置するケベック州が独立を求めたこともあった。

 長期出張をしていても、アメリカからカナダに入国しただけで、なにか安堵を感ずるのは、人々の心が穏やかで、どちらかいえばオーストラリア人に似ているという印象を持ったことを記憶している。ただ、アメリカ人と異なり、時間に関してはかなりルーズで、日本を観光させたとき、集合時間を守ってもらえず苦労したことがある。

 ただ、カナダ人には日本が好きという人が多いのは事実。


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