父・藤沢周平との暮し/遠藤展子著

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書評:ためいき色のブックレビュー-父

  「父・藤沢周平との暮し」 遠藤展子(1963年生)

  2010年10月1日 新潮社文庫より初版  ¥400

 娘が藤沢周平に関して書いていることは重々承知していながら、藤沢周平が往年に発表した数々の作品ばかりに頭がいってしまい、娘によるエッセイであることをしばしば忘却。

 ことに、藤沢周平のことになると、以前、このブログで採り上げた「司馬遼太郎と藤沢周平」というあまりに異なるイメージの作家と作品とを、かなりシリアスに比較、検討したことがあって、そのことも本書を読むうえで、悪い意味でなく邪魔となった。

 私の見立てに過ぎないけれども、日本語を駆使する作家のなかでも、藤沢周平は屈指の、というよりほとんどナンバーワンのスムーズな日本語を書く作家としての認識があり、意図的な巧みを感じさせない巧みさにいつも痺れながら、後日になって、藤沢作品の内容を記憶していないという妙なことが起こったもので、数々読んだ作品のなかでも、いまだに「橋ものがたり」以外は記憶から消えている。要するに、文章が上手すぎるのだ。

 本書の作者も「橋ものがたり」が好きだと言っていることに安堵した。

 この作家の筆は語彙の点で、父親には到底およばないが、変にいきがったり、自慢したり、顕示欲を垣間見せたりせず、父親が好んで書いた「巷の一市民」としての立場を守りながら、日本の文学界の頂き近くに存在する父親を書いたという認識が読後に残った。

 彼女の文章をあえて表現すれば、「さらさらと降る新雪」。


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