現代イスラムの潮流/宮田律著

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書評:ためいき色のブックレビュー-イスラム

  「現代イスラムの潮流」 宮田律(1955年生/静岡県立大学国際関係学部助教授)

  帯広告:いま、イスラム抜きに世界は語れない/世界で12億の人々に信仰される宗教

  2001年6月20日 集英社より新書版初版  ¥660+税

 イスラム教という宗教が6世紀にムハンマドが創設した一神教であり、アッラーこそが唯一の神であると唱えたことは知っていたし、それが基本的にはきわめて平和志向の強い宗教であり、団結と相互扶助を重視することも知っていた。また、キリスト教も、イスラム教も、いずれもユダヤ教をベースとした、いわば同根であることも知っていた。

 現代に至って、唐突に派閥と原理主義が台頭し、各地でテロに訴え、多くの同胞と異教徒を襲撃するという手法をくりかえす姿勢には、よってきたるところの様々な理由があるにせよ、みずからの本来清廉な宗教を損なっているといるというイメージを固定してしまった感がある。

 本書は同じイスラム国家とはいえ、それぞれに固有の問題や考え方をもつ国ごとに、本書が上梓された2001年までの西洋に植民地化されていた時代、ロシアとの関係、イスラム国家同士の角逐、イスラエルとの問題など、平易に、かつ広範囲にわたって説明され、基本的な知識を得ることはできる。とはいえ、イスラム国家といえば、中近東を中心にアジア、ユーラシア、アフリカ、地中海、バルカン半島などにおよび、12億の民が信奉する宗教である。この新書ですべて説明し得たとは思えないし、作者も書ききったという心境に達することはなかったのではないかと推測する。

  問題はむしろ、本書が刊行されてから以後の動向、変化、さらには将来への洞察などが示唆されていたら、本書としては完璧な内容に充実したであろうが、そこまで期待するのは無理というものかも知れない。

 私はかねがね、キリスト教にしろ、イスラム教にしろ、一神教がなぜ幾つもの派閥に分離し、互いに抗争するのかが理解できなかった。イスラムの基本理念に従って社会的平等や正義を実現する派がありながら、他方ではテロに執着する派があることは、イスラム社会そのものの内部問題であって、外部のわれわれには手の下しようのない部分に属するのではないかとすら思っていた。

 むろん、アメリカが、というよりブッシュとラムズフェルドがアメリカの望むような社会をイスラム世界に構築することを望み、押しつけ、と同時に、パレスチナに建国したイスラエルを全面的に支援するという行動こそが、イスラム世界にとって受け容れがたいものではあっただろう。ワスプを中心とするアメリカという国は基本的に他国の文化、伝統、風習を理解しようとしない国である。

 「イスラエルが古代ユダヤ教の神殿のあった場所であり首都でもあったところにある『嘆きの壁』は、キリスト教徒にとってもイエスが磔(はりつけ)の刑に遭い、埋葬された場所に聖墳墓教会がある聖地であり、さらにイスラムにとってはムハンマドが大天使「ガブリエル」に導かれてエルサレムから昇天したと考えられる地点であり、三者にとっては譲れないスポットとなっている」。(宗教のもつ頑迷さといっていいかも知れない)。

 この地域を論ずる場合、忘れてならないのは、アラビアやイラン、イラクのように地下資源に恵まれた国もあれば、地下資源のないアフガニスタンなどは最も手っ取り早い収入としてケシの栽培を行い、タリバン、アルカイダなどが戦闘を行使する際の資金源になっていることで、世界で最大の麻薬の生産地になっているという複雑さである。つい最近、この地域からの運び屋を日本女性がやっていたことがマレーシアの空港で発覚した。

 われわれが知っておくべきことの一つは、「イスラム教が勃興する以前、アラビア半島での女性は物品同様に扱われていたことで、そうした境遇の女性をイスラム教が救ったことは事実」だということ。

 「アメリカには自国の施設がテロ対象になっている原因についての自省的姿勢が欠落していた」。他文化を理解せずに、独自の急進的な論理をふりかざす限り、アメリカのこの地域へのプレセンスが好意をもって迎えられることはあり得ない。新しく大統領に選出されたオバマ大統領がブッシュ方式からどのように外交上の転換を図っていくかにかかっている問題だ。

 もう一つ、世界は先進諸国をはじめ、地下資源に依存しないですむ、つまりは中近東の産油国に頭を下げないですむ新たな科学的手法を模索している。そして、その努力はいずれ、どのような形であれ、報われるであろう。イスラム社会としても、そのような将来への予測をもって、新たな世界でどう経済を損なわずに、国民の生活に寄与できるかを今から考えておくことが賢明ではなかろうか。ドバイをつくって浮かれているだけが能ではない。

 それにしても、薄い新書を使ってイスラム世界を百パーセント説明することには無理があったのではないかと推量しつつも、本書からは多くを学ぶことができた。


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