生命の暗号/村上和雄著

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「生命の暗号」  村上和雄(1936年生/筑波大学応用生物化学系教授)著
サンマーク出版  1997年7月初版  単行本
副題:あなたの遺伝子が目覚めるとき
帯広告:バイオテクノロジーの世界的権威が「遺伝子オン」の生き方を語る

 

 遺伝子に関して書かれた著作。

 長くなるが、学んだことをかいつまんで列挙する:

1.2010年頃までには、ヒトの全遺伝子暗号の解説が完了するが、解読が進むにつれ、ことはそう簡単ではないことが判明しつつある。

2.あらゆる生物は人間を含め、血液循環にせよ、自覚的な工夫など無縁であり、ホルモン系・自律神経などが自動的に活躍しているからこそ、生物は生きられる。それが遺伝子だが、遺伝子をあやつり、支配しているのは細胞である。生まれたばかりの赤子でも、細胞は三兆個もあり、体重60キロの大人なら、約60兆個あり、そこには見事なまでの調和が構築されている。

3.遺伝子の働きは取り巻く環境刺激によっても変化する。たとえば、癌に冒された人でも、「治るんだ」と思う人と、「もうダメだ」と思う人とでは、癌そのものが変容し、症状を軽減したり、重篤にしたりする。

4.一つの細胞には、それぞれ核があって、核膜で覆われ、その核のなかに遺伝子が存在し、受精卵のときはたった1個の細胞からスタートし、時間の経過に伴い、分裂し、増え続け、段々に人間らしい姿となる。

5.遺伝子は細胞の核の中にあり、ここにDNA(デオキシリボ核酸)があって、それを遺伝子と呼称する。ヒトの細胞1個の核に含まれる遺伝子の基本情報は三十億の化学用語で示され、もしその用語を書物にすると、千ページの書物で一千冊になる。細胞は互いに受け持ち部署を決め、各細胞がきちんとそれぞの部署をガードしていると考えられる。細胞はそれぞれ独立した存在でありながら、器官や組織が見事に繋がりあって機能し、一つの生命体を創造している。

6.30億の化学用語で表される情報は1グラムの2千億分の1、幅が1ミリの50万分の1という超微小テープのなかに書き込まれている。地球の人口を60億としてDNAを集積しても米粒一つの重さしかない。

7.遺伝子が働かないと、人間はしゃべることも、言語情報を解読することもできない。

8.地球上には二百万種の生物がいるが、カビも大腸菌も植物も動物も、すべて人間と同じ原理をもっている。つまり、あらゆる生物が同じ起源を持つことを示している。

9.同じ親の組み合わせによっても、同じ子供は生まれない。子供には70兆通りの組み合わせがある。つまり、70兆という莫大な数の可能性の中から一人の人間が選ばれて、この世に誕生するわけで、どんな人間もいかに貴重な存在かが理解できる。兄弟、姉妹も、それぞれに個性があり、両親とも異なる。それは自然が多様性を好むからだが、誕生時の社会環境、文化の状態、教育水準、地理的背景などによる影響も受ける。気質や性格が遺伝子とどう結びついているかについては現段階では不分明。

10.天才の子供が続けて天才だったという例は歴史的にない、。ゲーテの子供も、モーツアルトの子供も凡庸だった。決定的に重要な遺伝子の情報部分が正常でないと、人間の体は正常な発達を阻害される。

11.「Something Great」を想定しないと、小さな細胞のなかに膨大な生命の設計図をもち、これだけ精妙な働きをする生命世界を当然のこととして受け容れにくい。

12.高等動物のクローン化成功は、理論上、どこの細胞からでも同一遺伝子のコピー人間を創ることができるようになったということを意味する。植物にしても、葉と茎から新しい生命を創れるのと同じ理屈。

13.人間の遺伝子は30億の情報をもとに細胞を働かせるが、実際に働いているのは5%程度とみられ、他の部分については未だに解っていない。つまり、自主性をもって必要な遺伝子を0Nにし、不必要な遺伝子をOFFにして生活し、社会に適応していくのではないかと考えられている。遊んでいる遺伝子が大量に存在することは、誰にでも現状を超えた、さらなる可能性があることを暗示するものだ。とはいえ、この件については今のところ仮説の域を出ていない。

14.DNAは糖とリン酸という構造の簡単な物質が交互に繋がった二本の長い鎖のようなもので、特徴的なのはこの二本の鎖がラセン状にからまり、梯子のようになっていること。人間のような精緻な生物の構造がA(アデニンン)、T(チミン)、C(シトシン)、G(グアニン)という、僅か四つの文字からなる情報によって決められていること自体、驚異的なことだが、微生物も含めたあらゆる生物の遺伝子の基本構造はすべて同じ。

15.遺伝子のもつ暗号はタンパク質をつくる暗号であり、タンパク質は身体の構成要素であるのと同時に、体内で起こる様々な化学反応に必要なホルモンなどの素材でもある。タンパク質は20種類のアミノ酸からできているが、そのうち12種類は体内でつくり、8種類は体外から取り入れる必要がある。

16.生物は化学反応で生きている。人体で化学反応を可能にしているのが酵素という物質で、一種の触媒。特定の物質に作用して反応をスムーズに行わせる能力をもつ。酵素の特徴は素材があって、そこに酵素が登場すると、通常の100億倍というスピードで必要な物質を生産してしまう。

17.成人の赤血球は一日に数千億も壊れ、それとほぼ同じ数の赤血球が生まれる。腎臓、肝臓、心臓のタンパク質も、すごいスピードで分解され、かつ再生される。これを「代謝回転」という。

18.洗面器に水を入れ、インクを垂らすと、インクは拡散する。これを「エントロピーの法則」といい、物質世界の一般則として認められている。つまり、人間も他の生物も生まれた瞬間から、崩壊と死の方へと向かうことを意味する。人間の体内の遺伝子はそれでも活発に働いて、エントロピーの増大を防ごうとする。

19.人間がもつ自然治癒力にも遺伝子のメカニズムが関係している。なかんずく、最も重要な役割を果たすのは心のもち方。遺伝子を活発化するのに有効な手法は心の働きだが、それは感動すること、あるいは感動した体験を想起することで、マイナス要因を払拭できる。

20.脳の働きも遺伝子によるものであり、細胞間のネットワークに依拠している。

21.臓器も細胞も、生命体内での働きであり、摘出して実験室や試験管のなかで観察できる働きが体内での働きと同一とは限らないことが、認識を難しくさせている。遺伝子操作で病気を治す目的で、マウスを使って実験したところ、病気は治ったが、腎臓に異常が発見され、マウスは間もなく死に至った。今後、遺伝子暗号の解読が確度を高めれば、メカニズムも判り、病気治癒に利用可能となるだろう。

22.遺伝子研究で大腸菌が最も多く使われる理由は、大腸菌は遺伝子がフル活動しているから。

23.バイオ技術は遺伝子組み替えを可能とし、品種改良における時間と種の壁を取り除いたが、自然がもつルールを破ることはできない。このことは「自然法則のバランスを破壊してはいけない」ことを物語っている。人間に自然破壊はできても、自然法則を乗り越えることは不可能。

24.ノーベル賞学者が束になってかかっても、世界中の富を集めても、これだけ科学が発達しても、細胞一個の生命体である大腸菌一つでさえ人間には創ることができない。むろん、生命体などを創造することは、たとえ蟻一匹でも全く不可能。

25.ダーウィンの進化論に対し、1960年代に「共生的進化論」と呼ばれる新しい説が発表された。それによれば、「最初の生物は大腸菌に核を持たない単純なものだったが、この細胞が核をもつ一段上の細胞に進化するとき、それまで存在していた幾つかの単純な細胞や、その一部が協力しあい、一つの新しい細胞を形成し、協調しつつ次第に高度な進化を遂げたのだ」といい、ダーウィンの自然淘汰、優勝劣敗による進化説を否定している。

26.ノーベル賞をとるような人は閃きからスタートして新しい発見なり発明なりに達しているが、こういう人で偏差値秀才だった人はいない。マニュアル発想の偏差値教育から脱すべき時がきている。

27.今の時代、研究者が単独でやっても容易に成果が得られず、グループによる研究が盛んになっていて、成果が挙がっている。成否を決定的にするのは同じグループ研究でも、チームプレイに徹しているチームの方が当然ながら成功率は高い。

28.人間には意識世界と無意識世界とがあり、無意識世界が「魂」というものと繋がっているのではないかと考えている。(こういうことを言う科学者には初めて出遭った)。

29.大便、小便、汗、耳垢、鼻くそ、痰、唾、髪、爪などは、排泄されたり、吐かれたり、切られたり、拭われたりされたとたんに、汚物になるが、体内にあるときはそうは思っていない。体から出てくるもので唯一の例外が「涙」である。涙は一般的に悲しいときと感動したとき以外には出てこない。

 本書には「人生訓」もどきの話が多い。この種の本に人生訓を期待する読者はいないのではなかろうか。同じ趣旨の内容が繰り返されるのも玉に瑕。


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One Response to “生命の暗号/村上和雄著”

  1. Miroku より:

    たいへん解り易かったです。
    11と28は、欧米に多いタイプの研究者と
    似た考えですね。
     確かに、トンデモ本ではない解説書では、
    珍しいですね。機会があれば、私も読んで
    見たいと思います。

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