痴情小説/岩井志麻子著

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痴情小説

「痴情小説」 岩井志麻子(1964年生)著
新潮文庫 2003年単行本初版
2006年6月文庫化初版

 

 解説者は「恐怖を感じる中枢と性的興奮を感じる中枢は互いに近くにあって、脳はしばしばそれを混同する」といい、この作品の根底にそれがあると論じている。

 私はむしろ、「男女関係はスリルを孕(はら)むほど、興奮が高まる」と考えるほうだが、本書は「痴情小説」とはいいながら、恋愛とか官能とかよりも、ホラー的な色彩が強く、作者のキャラが強すぎて、本書に登場する女性主人公のどの女性にも魅力とか心惹かれるものを感じない。

 舞台として選ばれるのは作者の出身地である岡山が多いが、ヴェトナムと韓国がしきりに出てくるのは、作者との因縁というより以上に、そこに作者が肌を接した男がいたからではないかとの推測を招来する。そして、「旅の恥は掻き捨て」というかつてあった俚諺が、いまや女性が使う言葉なのだとの了解に達した。

 そう考えると、フィリピンでも、グァムでも、サイパンでも、バリでも、イタリアでも、ハワイでも、日本女性が現地人にハントされるのを待つ姿や、海のなかで現地人といちゃついている姿を、しばしば目にしたことを想起した。かつて、ある女性作家が「日本の女はイエローキャブ」と罵倒した言葉が脳裡に浮かびもした。

 作者は13の短編を収めた本書を通じ、男女関係をニヒリスティックに見る姿勢が一貫していて、そのあたりに類のないアイデンティティを感ずる。

 なかの一遍に主人公の女性が「自分の下膨(ぶく)れした腹の上に、あの男のぶよぶよの下腹部が乗ったのかよ」というセリフと情景描写には真実味があり、その表現ばかりが脳裡に残滓のようにあって消えない。


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