真昼の星/椎名誠著

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真昼


「真昼の星」 椎名誠著 小学館 定価1785円+税

 本書はパタゴニア、アマゾン、チベットの三篇から成っている、224ページの単行本。

御存知のように、著者はこのところ外国の僻地をまわって、それを週刊誌にルポ風にレポート、あとでまとめて単行本にするという手法を採っている。

 正直感ずるところは、むかしと比べると、文が雑になっている感が否めない。加齢からくる不精なのか衰えなのか、折角体を張り、ある意味で明らかに命を張って、意図的に僻地へ足を踏み込むのだから、そのリスクに見合うだけの内容のある、めりはりのきいた、読者の心を揺さぶるほどのレポートを書いてくれたらと思う。

 旅行記、ルポの類はいまは映像と比較されてしまうから、むずかしい時代にはある。映像の能力を超えるものを抑え、そのあたりを映像にないタッチで、あるときは繊細に、あるときは大胆に、筆に載せていかないと、映像を超える結果とはなりにくい。

 やはり、人間のことが第一である。レンズが映しきれないなにかが人間の容貌や、皺や、口元や、目つきにあったりする。ちょっとした人間の仕草や、やりとりのあいだに、唸らせるものがあったりする。

 最近では、民放、NHKにかぎらず、かなりのレポーターが僻地に入って、滞在しながらレポートするケースが増えているから、椎名さんのライバルは増えこそすれ減ることはない。大変な仕事だ。

 

 椎名さんが椎名さんらしいアプローチと、救い上げと、まとめをやってくれることを、ファンはひたすら待っていることを忘れないで欲しい。

 今回印象的だったのは、女でも男でも、平気で人前で大小便をするという光景で、羞恥心というものが生活の基盤から生まれてくることがよくわかる。私もインドネシアに長年いたが、場合によっては紙のない、水だけで流すやり方を学んだ。 だいたい、便を拭くのに紙を使うのは世界の10分の1くらいで、ほとんどは水、砂、葉、であることを銘記しておいたほうがいいだろう。

  紙を使えるのは、他国の森林を破壊させ、砂漠化を促して、輸入できる先進国だけであることを。ことのついでにいえば、箸の使い捨ても日本だけの現象で、この習慣も世界の砂漠化に影響している。だいたい、「紙で尻を拭いても、便は残り、残らないようにごしごしこすれば、痔になる」とある医師から聞いたことがあるが、「最もきれいに便がとれて、痔にもならない方法は水洗いだ」と、その医師はつけ加えた。

 「慣れ」というものは恐ろしいもので、人前で平気で大小便をするのは、なにもこの地区の人に限ったことではなく、中国人だって平気だし、インド人も平気だ。 アメリカ兵士だって、兵士の寮などでは、ドアを開けたままトイレにすわっている。日本人のように、せまい場所に閉じ込められないと、落ち着いて大小便、とくに大便はできないなどといっている方がむしろ地球上では少ないことを知識としてでも持っておいたほうがいい。 日本人はドアに鍵がかかっていても、どっ広いところでは、落ち着いていられない。また、だれも見ていなくとも、どっ広い野原でも大便はしにくい。これは狭いところで生きてきた後遺症が、ほとんど遺伝子にまでなって、脳の底に残っているからだ。言葉を換えれば、日本人は広大な空間では忘我の状態に陥る。

 変なまとめになるが、「日本人はもう野外で戦はできない民族になったな」という印象をもった。だいたい、現在の日本人はあまりにサニタリーに配慮しすぎるため、体に免疫そのものが減少している。もし、鳥インフルエンザの新型や、サーズなどの細菌が、むかしスペイン風邪が流行したときのように、世界中に拡大したら、まず日本人から死滅するだろう。


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