眠れなくなる宇宙のはなし/佐藤勝彦著

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書評:ためいき色のブックレビュー-宇宙

  「眠れなくなる宇宙のはなし」  佐藤勝彦(1945年生/宇宙論、宇宙物理学を専攻)

  帯広告:宇宙の95%は正体不明

  2008年7月7日 宝島社より単行本初版  ¥1400+税

 この作者には「相対性理論」「ホーキング未来を語る」「宇宙はわれわれの宇宙だけではなかった」「量子論を楽しむ本」などの著作もあり、同時に「インフレーション理論」の提唱者としての実績もあって、本ブログにそれぞれ紹介してきたが、それらの著作が天文学に初めて接する人には難解であったのに比べ、本書は初心者を読者対象とし、ほとんどが会話体で書かれている。そのため、本書の宇宙論はとても理解しやすい内容となっている。

 裏表紙の帯広告には、「宇宙は私たちと密接に結びついています。なぜなら、宇宙を知ることは宇宙の中に生きる人間を知り、『私』自身を知ることだからです。人間の宇宙観の歴史をたどっていただければ、そのことをきっと理解いただけると思います」と、冒頭の言葉が書かれている。

 本書では、(1)現在までに判っている宇宙の実態、(2)宇宙観の歴史と天文学に寄与した発見、学説、証明の歴史、(3)望遠鏡の発明と改良技術が新たな発見に繋がった歴史、(4)最新の天文物理学の説明(作者が提唱したインフレーション理論や超ひも理論を含む)などについて詳細に、かつ判りやすく書かれている。

 宇宙の話はいつ接しても、心を幽玄の世界に運んでくれる。

 以上は書評、以下は私のための備忘録:

1.宇宙の実態

 (1)全天で太陽を除き、最も明るい恒星は大犬座の一等星、シリウス。

 (2)太陽系は銀河系に存在し、銀河系には2千億個の太陽、つまり恒星が存在し、円盤状の銀河系は半径5万光年(1光年は10兆キロメートル)で、太陽系はその中心から3万光年ほど離れた片田舎に在る。

 (3)星の集団、銀河は確認されているだけで宇宙に1千億個ほど在り、銀河自体も集団をつくっている。数十個程度の集団は「銀河群」、百個以上は「銀河団」と呼ばれる。太陽系が属する銀河はアンドロメダ銀河などと同じ30個ほどから成る「局所銀河群」という比較的小さな集団。

 (4)銀河群や銀河団はさらに幾つかが集まって、「超銀河団」をつくり、我々の銀河系が属する局所銀河群は3億光年ものサイズをもつ「乙女座銀河団」の仲間で、局所銀河群はその端のほうに位置している。

 (5)超銀河団同士は隣と繋がって、蜂の巣の形をなし、巣の穴にあたる部分は数億光年にわたって銀河が存在しない領域、「ボイド」となっている。

 (6)地球から確認された最も遠い銀河は、約129億光年もの彼方に在る。

2.宇宙観、発見、学説の歴史:

 (1)地球を初めて球形だと主張したのはピタゴラス。

 (2)アリストテレスは自然のあるがままの姿を研究し、その内部にある本質や規則性を見抜くことが重要だと説き、天文学、気象学に多大な影響と業績を挙げた。

 (3)アレキサンダーの東方遠征によりヘレニズム文化が興隆、エジプトの新しい首都、アレクサンドリアを中心に、幾何学を体系化したユークリッド、浮力の大きさを示した「アルキメデスの原理」で知られる数学者であり物理学者であるアルキメデスの両者が、それぞれその名を歴史に刻んだ。

 (4)ヘレニズム文化の科学者、アリスタルコスは月と太陽の大きさを測定し、それぞれの地球との距離を誤差がありながらも把握、太陽が地球よりはるかに大きいことを知って、「地動説」の端緒となった。

 (5)古代ギリシャの天文学者とされるヒッパルコスは精密な天体観測を行なった結果、月までの距離をかなりの確度で測定、同時に星図をつくり、約850個の星の位置を記録、明るさをベースに星の等級を考えた。また、地球の自転による自転軸の方向がゆっくり変化する「歳差運動」をも発見している。

 (6)ローマ帝国が台頭し、天体観測は暦づくりのためにだけ使われた時代、アレクサンドリアのプトレマイオスではギリシャ人が地球と各惑星との距離、動きを想定、互いに遠く近くなる関係で、明るさに変化が起こることを発見。他民族が神話的な自然観、宇宙観に捉われていた時代、ギリシャ人だけは合理的な宇宙観を唱えていたことは驚嘆に値し、他地域とは比較を絶している。(ギリシャ人の質も当時と現在とでは大きな開きがある)。

 (7)西洋史の4世紀から16世紀までを中世と呼ぶが、教会による抑圧のために「地動説」を声高に主張できない時代が1千年以上も続く。(宗教というものの愚昧性)。西洋による十字軍の中近東への派遣がギリシャの知性と合理性を伝えるイスラム文化から逆輸入され、西洋人はギリシャの先人たちの業績に驚嘆する。

 (8)14世紀になって、ルネサンス文化がイタリアのフィレンツェを中心に花開き、古典ギリシャ文明の合理的思考の復興が伴った。

 (9)15世紀には、コロンブスによる新大陸発見があり、地球の球体説が証明された。

(10)16世紀、天動説に疑問の目を向けたコペルニクスはアリスタルコスの地動説と出遭い、地球と他の惑星は太陽の周囲を回っていると考えたほうが惑星のあらゆる現象を説明できることに気づいた。

(11)ケプラーはコペルニクスの地動説から、惑星の軌道が楕円であるという発想に至り、これを「ケプラーの第一法則」と呼び、第二法則は惑星の運動の速度を、第三法則は惑星の軌道の大きさについて説明した。

(12)イタリア人のブルーノは、宇宙には太陽と同じ恒星が無数に存在し、太陽系だけが特別な存在ではないと主張、ローマ教会と対立し、逮捕され、8年間牢獄で過ごし、あげく火あぶりの刑に処せられる。

(13)1608年に発明された望遠鏡を使って宇宙観測したのがガリレオ。木星の周囲を回る衛星を発見し、1610年には太陽の自転、太陽の黒点などを発表。ガリレオは教会裁判で地動説を放棄することを宣誓したが、フィレンツェの郊外に軟禁されたまま余生を過ごした。

(14)17世紀後半、イギリス人のニュートンが微積分法を案出、プリンピキアで「万有引力」を発表、慣性の法則とあわせ、遠隔力によって離れた星々が互いに影響しあうことを発見したことで、ケプラーの「惑星の楕円軌道説」を立証。ニュートンの出現は新たに「天文力学」を生んだ。

(15)ハレーはニュートンの万有引力の法則から、彗星も75年前後の周期で細長い楕円j軌道を描きながら周回していることを予言、ハレーの死後、これが立証され、「ハレー彗星」と命名された。

(16)1781年、ハーシェルは土星の外を回っている天王星を発見、19世紀に入って、ガレはさらに外側に海王星を発見。ハーシェルは18世紀末に「島宇宙」という仮説を発表、銀河の存在を示唆。

(17)1838年、ドイツのベッセルは「年周視差」(地球が公転して動くために起こる視差)を恒星に対する測定で成功。1939年には、イギリス人のヘンダーソンがケンタウルス座アルファ星までの年周視差を検出。太陽系から最も近い恒星、アルファまで4光年あることを知り、宇宙の広大さを知覚させることに貢献。

(18)19世紀半ば、ドイツ人のホルヒホッフは天体の放つ光が天体の組成を教えてくれることを発見。光のスペクトル分析が太陽に水素、カルシウム、鉄、ナトリウム、マグネシウム、ニッケルのほかにヘリウムが存在することを示唆。同時に、他の恒星の色を調べることで、それぞれの温度もわかるようになった。これにはダゲレオタイプの写真術が寄与し、恒星までの正確な距離と絶対光度が判るようになった。

(19)20世紀になると、恒星は核融合という仕組みによって燃えていることが判り、星の進化が理解できるようになった。太陽の場合なら、年齢は50億歳で、現在は安定期にあり、あと50億年は輝き続けることを。

(20)さらに、「ドップラー効果」により、星の運動速度が判り、宇宙全体が膨張過程にあることも判った。

(21)1905年にアインシュタイン(ドイツ人)は「特殊相対性理論」を、1915年には「一般相対性理論」を発表、「光速度不変の原理」を発表し、時間が場合によって速度を変えること、動いている物体は進行方向の長さが縮む真理を明らかにした。さらに、物体の存在は重力そのものであり、周囲の空間や光を曲げることをも明らかにした。

(22)ベルギー人のルメートルは宇宙はミクロの状態から膨張して現在の姿になったとの論文を発表。

(23)アメリカ人のハッブルは1929年、アンドロメダ星雲までの距離が90万光年で、銀河系の外に在る別の銀河であることを発見(実際には230万光年であることが後に判っている)。さらに、「ハッブルの法則」として、銀河の後退速度はその銀河までの距離に比例することを示し、ルメートルの膨張説を支持。

(24)ガモフは1946年、「ビッグバン宇宙論」を唱え、宇宙の誕生を説明した。中性子と陽子が存在する超高温、超高密度の小さな火の玉が膨張し、中性子が壊れ、電子と陽子、素粒子の一つとニュートリノが生まれ、次のステップで陽子2個と中性子2個が結びついてヘリウムの原子核になり、さらに次のステップで陽子3個と中性子4個が結合して、軽いリチウムの原子核ができること、現在の宇宙空間には、そのときの名残りである電波が満ち満ちていることを予言した。

(25)アメリカの技術者、ペンジアスとウィルソンは衛星通信用の巨大アンテナに正体不明の電波が空のあらゆる方向からやってくることに気づいた。電波は24時間、絶え間なく受信された。これを「宇宙背景放射」といい、ガモフ理論を立証した。

(26)1960年代、ホーキングとペンローズは相対性理論に基づいて宇宙の歴史を考えた場合、膨張と収縮をくりかえすことはあり得ず、これを数学的に証明、必ず「特異点」から始まらなければならないと主張。ホーキングの理論は「無境界仮説」と呼ばれ、虚数をベースとした考え方。

(27)本書作者の佐藤勝彦とアメリカのグースはそれぞれ独立に「インフレーション理論」を展開、宇宙は生まれてすぐ急膨張をし、そのあと緩やかな減速膨張に転じた。38万年後には宇宙のサイズは現在の1千分の1ほどになり、温度も下がって、38万年後には電子が原子核にひきつけられて原子を構成、光が直線で進めるようになり、これを「宇宙の晴れあがり」と呼んだ。この光が宇宙背景放射の元となる。

(28)相対性理論に量子論を加えた新しい理論が現在の天文学界を席巻している。また、新たに「ブレーン宇宙論」と名づけられた理論があり、これが「超ひも理論」を生み、宇宙は10の方向をもつ10次元空間で、超ミクロのひも状から成る薄い膜のような存在ではないかとの説が発表されている。10次元の世界から地球を見たら、薄い膜のように見える。(想像を超えている)。

(29)宇宙で我々が知っている物質やエネルギーは全体のたった5%で、これは地球にも存在する各種元素であり、これを素粒子物理学では「バリオン」と総称する。あとの95%のうち23%は重力のある暗黒物質であり、重さはバリオンの10倍と推定。候補に挙げられているのはニュートリノとアクシオンという未知の粒子。あとの72%は暗黒エネルギーで、超新星の大爆発によるものであり、重力とは逆の反発力を生む。


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