知っておきたい「酒」の世界史/宮崎正勝著

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知っておきたい酒の世界史
「知っておきたい酒の世界史」 宮崎正勝(1942年生)著
角川ソフィア文庫  2007年6月初版

 
 本書は古今東西のあらゆる酒を採り上げ、それぞれの起源、製造法、原料、香料、度数、伝播の過程、発見にまつわるエピソード、カクテルの誕生の由来、飲酒の場の名前の変遷、などなどが克明に紹介されている。

 ポイントを簡単に触れると:

1.アルコールの語源はアラビア語で、酒を嫌悪した時代の長いことで有名なインドでも、3千年前に「ソーマ」と呼ばれる強い酒があったこと、蜂蜜酒「ミード」は最古の歴史をもち、古代エジプトにも、バビロニアにも、古代ギリシャにも、古代スカンジナビアにも知られていた。また、葡萄の原産地はカスピ海沿岸、鳥が種を地中海沿岸に運び、フェニキア人が栽培技術を伝えた。

2.7千4百年前のイラン北部、ザクロス山脈の遺跡から出土した破片からはワインの残滓が発見され、その後、6千年前から4千年前にかけてメソポタミア、古代エジプトに伝えられたものと考えられる。ギリシャではワインをアンフォラに入れて販売した。初期のアッパース朝ではヤシ酒が好んで飲まれた。

3.当時のワインはドロドロの濁り酒で、ギリシャ人は通常水で割って飲むことを習慣化し、泥酔することを回避、ワインをそのまま飲むことは「スキタイ式の飲み方」として嫌悪した。ワインはまたローマ帝国初期に伝えられ、カエサルが地中海を制覇すると、ローマ人はワインを宴席に欠かさなくなった。クレオパトラはエジプトに豊富なワインをカエサルにもアントニウスにもふるまったという。

4.本書が包括する酒は、モンゴルの「馬乳酒」、東南アジアの「ヤシ酒」、古代エジプト人が製造した「ヘクト」と呼ばれる「ビール」、古代ゲルマン人が好きだった「蜂蜜酒」、ドイツ人が洗練したポップで味わいを深くした「ビール」、中国の「黄酒」「白酒」「紹興酒」、インカ帝国の「チチャ」、ロシアの「ウォッカ」、イスラム世界の「アランビック」、東西アジアでアランビックから名を変えた「アラック」、イギリス北部のハイランド地方の「ウィスキー」、スペイン人が開発した「リキュール」、15世紀後半にシャム(現在のタイ)のアユタヤから伝播した琉球の「泡盛」(原料は米)、琉球からサツマイモと一緒に16世紀後半に伝えられた薩摩の「薩摩芋焼酎」、スペインのアンダルシア地方の「シェリー酒」、アステカの「イスタク・オクトリ」と「ブルケ」、スピイン人が「ブルケ」を蒸留酒で蒸留した度数45度の酒が「テキーラ」、北欧の「アクアビット」、オランダの「ジン」、「コニャック」、米国の「リンゴ・ジャック」、「バーボン」「ラガ・ビール」、ハワイの「鉄の尻」(オケレハウ)、フランスが独自に始めた「コニャック」「アルマニャック」と「シャンパン」、スイスの幻の酒「アブサン」、フランスがアブサン風味を引き継ぐ酒として製造した「パスティス」、カナダの「カナディアン・ウィスキー」、西インド諸島の「ラム酒」、日本の「日本酒」。

(沖縄の「泡盛」には与那国島の花酒も含まれるが、70度もある花酒が自家製で存在したことには触れていない)。

5.日本にアルコールが伝えられたのは6,7世紀頃で、日本人がアルコールをたしなむようになったのはそれほど古い時代ではない。

(アルコール飲料とのつきあいの短い事実は、日本人を世界で最も下戸の多い国にした理由。概して、西欧人や黒人に下戸はいず、東南アジアには日本人を筆頭に、下戸が存在する。牛乳を飲んで下痢をするのも西欧人にはいず、東南アジア人に多いという事実と相似の関係にある)。

6.ビールの年間生産量は1億リットル、世界一の生産国はアメリカ、次いでドイツ、イギリス、ベルギー。

7.カルピスはモンゴルの馬乳酒をヒントに製造された。

 酒のことで大きな疑問が私にはある。それは、飲酒後に暴れたり、他人につっかかったり、はては喧嘩を売ったりすることで、仲介者が、「酒の上でのことですから、勘弁してやってください」などと言うと、意外にことは治まるという風習がこの国にあることだ。私は社会生活を送るなかで、こういうのを徹底して赦さなかった。酒をたらふく飲んだやつを思い切り殴ると、急性アルコール中毒を起こす場合もあり、殺してしまうリスクがあるので、殴るようなことはしなかったが、その男が知己であれば、シラフのときに厳しく諫めた。「今度同じことをやったら、殺す気で殴るぞ」と威嚇しつつ。「酒のうえでのことだから」といった言い訳は、西欧では通らない。それは日本人がアルコールに弱く、酒癖が悪くなるやつ、豹変するやつ、泣くやつと、色々だが、その程度がこの国にひどい事実は、本来アルコールに弱い体質の民族だからであることに、ようやく納得がいった。「一気飲み」をさせて喜ぶのも同じ理屈。


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