破綻するアメリカ・壊れゆく世界/ノーム・チョムスキー著

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「破綻するアメリカ・壊れゆく世界」 ノーム・チョムスキー(1928年生/アメリカ人)著
原題:Failed States
帯広告:オバマで変わるのか?
訳者:鈴木主税/浅岡政子共訳
集英社 2008年12月20日 単行本  ¥2900

 

 原文か訳文か、いずれに責任が在るのか断定はできないが、2006年7月25日に書評した同作者の「覇権か生存か」に比べ、文の流れに円滑さが欠けている。

 専門家の書いたもの、発言したものなど、膨大な参考資料を掲載したために、文体に合一性が欠落し、きわめて読みづらくなった原因になっている。翻訳に当たった二人の訳者も相当に苦労したことが憶測される。また、「~けれど。」「~けれども。」で文を終わるケースが多発することには嫌悪感が否めない。

 さらに、本書のタイトルと日本での発行日、さらに帯広告の言葉が、アメリカが金融危機を迎え、政権がオバマに変わることが判明してから著された作品の如くに装っていることは、出版社の虚偽的な宣伝志向と手法を感じさせる。一種の粉飾といっていい。

 実際の内容は、アメリカが過去(レーガン時代から)に犯した暴力的な他国への侵攻や、他国民の虐殺、民主主義を植えつける目的を口にしながら、その実、左傾する政権に対抗する残忍な独裁者を支援したり、地下資源の支配に走ったり、国際連合安全保障理事会の決議に対し頻発した拒否権、イスラエルとのパートナーシップなどに絞られていることで、それらはそれらなりに、関心を惹かれはする。

 犠牲にされた国はカリブ海、中央アメリカ、南アメリカ、中近東に集中しているが、作者はアメリカに最も近い国に民主主義が育たないことを揶揄している。

 ことに、イラクへの侵攻目的、「核兵器や化学兵器の密造を暴くこと」に失敗したとたん、目的を新政権とイラク国民に民主主義を教えることに切り替え、一方で石油を支配し、アメリカ企業に有利な採取に力を貸したものの、市街戦に突入してから以降、中東に反米勢力を増大させ、聖戦を鼓吹する集団に新たに参加する若者を増やし、イラクの都市が格好の訓練場となった。

 さらには、アメリカが撤退すれば、イラクはシーア派を通じイランとの連携を深め、サウジアラビアとも結託し、延長線上には中国、インドとも結束をはかるという図式があり得、「エネルギー安全保障網」を構築し、アメリカが支援して憚らないイスラエルに立ち向かう可能性を秘めているとの指摘は、全面的に否定できないものがある。

 だとすれば、アメリカが侵攻後に費やした努力(軍事コスト、輸送コスト、兵士の命、市民の犠牲、エネルギー、支援コスト、時間など)はすべて水泡に帰すという皮肉な結末をもって終焉を迎えることになる。

 「アメリカだけは例外だという勝手な主義」に終止符を打つために、アメリカがやらねばならないこととして、次の七項目が挙げられている。

1.国際刑事裁判所および国際司法裁判所の裁判権を受け容れること

2.京都議定書に署名をし、それを推進すること

3.国際危機への対処は国連主導とすること

4.軍事よりも外交および経済的手段を維持すること

5.国連憲章の初期からの解釈を尊重すること

6.安全保障理事会における拒否権を放棄し、人類の意見に耳を傾けること(拒否権の放棄はロシア、中国に対しても強いるべきだ。戦後70年経過して、まだこれらの国が大きな顔をしている図が不快きわまりない)。

7.軍事支出を大幅に削減し、社会福祉を大幅に増やすこと

 私はこれら七項目のほかに、「イスラエル・パレスチナ紛争に関し、イスラエルばかりを一方的に支援することを控え、和平を実現するためにイスラエルの無闇な侵略行為を抑止すること」と、「国連を維持するための分担金を経済力に見合った額できちんと支払うこと」を加えたい。

 期待過剰であったのは確かだが、「オバマで変わるのか?」に魅了されて入手した迂闊さにがっくりきたというのが本音である。


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