神の棄てた裸体/石井光太著

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神の棄てた裸体

「神の棄てた裸体」 石井光太(1977年生)著
副題:イスラームの夜を歩く
帯広告:そこで見たものは戒律から外れたイスラームの性 偏狭を探訪する体験的ノンフィクション
2007年9月15日 新潮社より単行本初版
¥1500+税

 

 本書は2006年正月から半年にわたってイスラム教の支配する国々に踏み込み、男女の性の部分にだけ的を絞って調査したもの、一貫して奥へ奥へと入っていく姿勢には驚嘆するものがあるのと同時に、他国、とくにイスラム諸国の偏狭の地における取材には大きなリスクがあることを軽視しているかのような印象もある。

 インドネシアでは、少女による売春禁止法が施行されているにも拘わらず、首都ジャカルタのスラムでは度重なる摘発があっても、少女売春は跡を絶たない。(スマトラ島でも、ジャワ島でも、バリ島でも状況は同じ)

 パキスタン、アフガニスタンでは女性は宗教上の戒律により外出の際は夫か家族を同伴することが義務づけられている。ために、男娼が多い。

 パキスタンの首都ペシャワールでは男娼とはいえ10歳から16歳の少年ばかりで、昼を過ぎると公園に姿を現す。買うのはもっぱら中年の男で、少年らのほとんどは難民の子。女性の売春婦もいるが、屋内で待機する。

 イスラム教徒はホモを許さない傾向が強く、男はあえて性転換せず、男の格好のままニューハーフ並みの言動をする。他者から迫害を受けることもしばしば。

 ヨルダンの首都アンマンにはナイトクラブがあり、ロシア、ルーマニア、ウクライナ、モロッコなどからの出稼ぎホステスがいる。パレスチナ、レバノン、シリアからの女性は踊り子となり、クラブへの客の大半はアラブの金持ち。

 レバノンの首都ベイルートでは、現地の女性が単独で外出することができないことを知って、アジア系の女性が大挙して出稼ぎにやってくる。ほとんどはフィリピンの中年女性。家政婦として現地人の家庭に入り、主人に犯されて妊娠するケースも起こるが、彼女らは帰国しようとはしない。お手伝いの仕事だけでは国への充分な送金ができないから体を売る。中近東の男は避妊具をつけないから妊娠が多発する。

 マレーシアのクアランプールではタイ同様、性転換したニューハーフが多い。中国人やインド人の娼婦も少なくない。最も多いのは言語がマレー語で7割が同じ言葉ななためインドネシア人女性が最も多い。

 バングラデシュのコックスバグールは小さな港町、ミャンマー側に住んでいる少数民族の一つ、ロヒンギャ族がバングラデシュに避難してくるのに対し、バングラデシュの男たちは出稼ぎで町に出ているため、この地に男がいない状態が継続、帰って来ない例も多く、見かけるのは女ばかり。ロヒンギャ族の男たちは土地の女と結婚し、子を産ませては子を売りにいく。同時に、土地の女たちはロヒンギャの男を相手に売春もする。

 イラクの国境にクルド人の村があり、ここにも男に比べ多くの女が住んでいる。ために、男は三人、四人もの妻をもらい、生活を助けざるを得ない。クルド人は自らの領土を持たず、トルコ、イラン、イラクの国境の山岳地帯や荒野に暮らしているが、トータルで3千万人の人口であり、サウジアラビアの人口よりも多いが、どこにいても男は迫害の対象となり、結果として女ばかりが残ってしまい、あぶれた女を救う義務が生きている男に発生する。

 ミャンマーの国境の村では、イスラム教徒の女が異教徒の子を孕んだ場合、処刑の対象となる。太平洋戦時、日本兵から強姦されて妊娠した多くの女は処刑を免れるため、子を置いて、村を出ていった。

 パキスタンとアフガニスタンの国境は世界でも最も封建的な土地。未婚の娘が男とでき、性的関係を結んでいることが発覚すると処刑される。この社会的倫理には誰も逆らえない。同性愛も禁止され、もし見つかれば、これも処刑され、イスラム教本来の土葬ではなく火葬に付される。

 インドに住むイスラム教徒は1億人いるが、インドでは1割にも満たない数で、警察官はすべてインド人。カルカッタには娼婦の売春宿があり、不断にインド人警察官から賄賂を要求される。また、政府は人口抑制を目的に、避妊手術をした女性には補助金(¥750)を出す。

 バングラデッシュの首都ダッカの公園にはホームレスの少年、少女が群れていて、売春をする。体を壊した女だけの住む不潔な一隅もあるが、体が使えないような病に陥った娼婦は腐った野菜のように棄てられる。

 以上、著者が足を踏み入れたところは地域的にも、地勢的にも、治安面でも人心面でも険しい地域ばかりで、並みの精神力ではできない仕事であるという評価はできる。ただ、遠慮なく言わせてもらうなら、作者の人道主義的な言動は安っぽく、かつ青く感じられた。


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