脳を究める/立花隆著

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脳を究める

「脳を究める」  立花隆著
副題:脳研究最前線
朝日文庫  2001年3月1日文庫化初版
¥580+税

 

 これまで、「脳」に関する書籍は、首記作品の著者のものを含め、10冊は読んでいるが、本書には専門用語がふんだんに使われ、基本的な知識は持っているつもりだったが、読みはじめて即座に本書を理解するうえで自分の脳がむしろ隘路になることを認識せざるを得なかった。「難度が高い書籍」だと言っていいだろう。

 さらに、私を混乱させるのは、「脳」の研究はここ20年ほど、世界的に専門家による競争状態になっている事実で、本書が2001年の出版であることが最新の研究結果を著しているのか否かについて疑義を持たざるを得ず、読書そのものに逡巡するものを感じ、そのことが本書を紹介する上でのためらいにもなった。

 そこで、僅かではあるが、間違いのない部分だけを拾って、以下に記そうと思う。(  )内は私の意見。

1.脳科学の目的は、第一に、脳の構造と機能との結びつきを解析することで、機能不全や障害を解決することが期待される。第二に、機能の強化、充実、向上を現実化する可能性を探ること。第三に、脳の分析を通じて得られる知識を工学的に応用し、新しい情報処理の方法あるいは装置をつくる可能性を追及すること。

2.脳は超複雑な神経回路網であるのと同時に、超複雑なケミカルマシンであり、脳のあらゆる機能は多種多様な化学物質によって媒介されている。ひとむかし前には、ニューロンとニューロンとのあいだにシナプスという空隙があって、その間の情報伝達は神経伝達物質によって電気的に行なわれるという理解だったが、脳はそんなに単純なものではないことが解ってきた。

 (脳には一千億のニューロンが存在し、一つ一つのニューロンが数千から1万のシナプス結合で他のニューロンと繋がっているのだから、その複雑性は、確かに想像を絶している)。

3.これまで、脳研究には動物(ラット、蛙、猿、etc)が使われ、微小電極を刺しこんだり、脳細胞を取り出して切り刻み、顕微鏡でのぞきながら刺激を与えたりしたが、動物の実験をいくらやっても、人間の脳のもつ言語能力や心の問題は判らない。とはいえ、人の脳を扱うにあたっては、死体でない限り、非侵襲的でなければならず、それが研究の条件になっている。研究者によっては、条件を克服するために、脳波を調べたり、コンピューターを使って計算したり、脳内から発せられる磁気を測定したりしている。

4.脳研究論文は世界で一年間に3千から5千以上が発表されているが、そのうち日本が10%、アメリカが60%、ヨーロッパが30%である。

 (アメリカが突出している理由は、世界から人材を金で招聘しているからで、ノーベル賞の取得者の数でも世界を圧倒している)。

5.脳科学は人間だけが持つ知、情、意という最も枢要な領域を対象にしている。にも拘わらず、資金において、日本はアメリカの20分の1、人材においては10分の1というレベルにある。GNPでは2分の1であるのに。

 (現在のGNP比較では、日本はアメリカの3分の1にも達していず、辛うじて第二位を保っているが、遅かれ早かれ、中国に抜かれる運命にある)。

 アメリカは脳研究に1000億円くらいの資金を投入しているのに比べ、日本は研究費がお粗末な割には業績を挙げているとは言える。

 以上、これはと思った部分の紹介だけを記したが、本書には多くのページに脳の回路に関する図面、図解のほか写真も掲載され、読者の理解を助けようとの意図であろうが、掲載ページの文字が小さすぎることも手伝って、図面の複雑さと言葉の専門性に辟易してしまう。一般読者ではなく、専門家を対象に書かれたのではないかとすら思った。


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