花芯/瀬戸内寂聴著

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花芯


 「花芯」  瀬戸内寂聴著  講談社文庫刊

 この作家の著作にははじめて接した。

 男女のことが中心に、それもかなり奔放に、かつ濃厚に描かれた小説。 

 30年まえ(瀬戸内晴美時代)の作品とは思えぬほどに、性愛に溺れる女の淫らさが描かれている。この作品が世に出たころ、当時の評論家諸氏が喫驚、仰天しただろうことが想像される。それは時代は少し遡るが、与謝野晶子の和歌が世に出たときに変わらぬ衝撃であっただろう。

 言葉の選択に細心の気配りをしつつも、大胆な筆致で、かつ独特の構成。 

 言葉を換えれば、いやしい言葉を使わずに、巧みに、しかもあけすけに濡れ場を描写、それでいながら読者の下半身にどーんと響くパンチ。 同時代の恋愛小説を書いていた作家のほとんどは性愛を大胆に、かつ巧みに書くうえで、この作家に到底およばない。

 二文字の漢語よりも和語を好んで使う筆使いが迫力を生んでいるし、とことん和風な感じがなんともいえない。 和風で描かれる男女の性愛が植物的陰湿さをはらんで、一層淫らで、卑猥な印象を高めるという効果をもったことも事実。 ほんの一例だが、「凄惨な」といいたいところを、「むごたらしい」という言葉を選ぶところにぐっとくる。むろん、和語を駆使する傾向は全編に一環している。

 「相手の喜びそうな言葉を書いては、文字のもつ非情さにぞっと鳥肌がたつのを覚える」 などという文には、読者もぞっとするだろう。

 感想だが、男と女のことをこれだけのレベルの筆致で、言葉のオブラートで包みつつ、書きおおせるという裏舞台には、寂聴さんの生活体験はもとより性への思いと認識がしっかりあったからだと憶測する。 つい先だってのTVでも、「私は男と別れると、すぐ次へ、次へと・・・」というような放埓な発言を聞き、「なるほど」と唸った次第。

 寂聴さんは和風の人だけに、俳句にもしばしばその才能を披露している。江国滋氏(故人)の書いた俳句の本に紹介されていたが、 「乱れ籠」などという言葉を五文字のなかに入れた句に接し、色っぽさに圧倒された記憶がある。

 晴美時代の恋愛小説にはまだまだ読者を驚愕させ、目を剥かせる内容の小説が存在しているであろう。

 


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