華岡青洲の妻/有吉佐和子著

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華岡青洲の妻

「華岡青洲の妻」
有吉佐和子(1931-1984)著
1967年 新潮社より単行本初版
1970年1月30日 同社より文庫化初版
¥400+税

 

 華岡青洲といえば、数年前にTVドラマでも見たが、1700年代に紀州に生を享けた外科医であり、専門に研究して成功したのが古今東西に例のなかった麻酔を利用した手術だった。青洲が医家を継いだとき、江戸では杉田玄白が「解体新書」を世に出していたという時代的背景もある。

 本書は、国内外を問わず、古くて新しい問題である嫁姑の問題に軸足を置いた時代小説。

 医家という特殊な家庭環境にあった青洲の母と妻との葛藤を扱ったものだが、目標とする麻酔の造り方を把握し、効果を確かめられるように、自らの体を使った「人体実験」を女二人が競って申し出るというプラスアルファが加わった関係を女の視点から見事に描いた異色の小説である。

 人体実験は、嫁が盲目になるという悲惨な結果となるが、青洲は1810年前後に曼荼羅華(朝鮮朝顔)と鳥頭(トリカブト)を使った麻酔薬を発明、世界で初めて乳癌手術に成功。先進諸国では、1842年にアメリカ人のロングがエーテルを使って手術に成功し、1847年にはイギリス人のシンプソンがクロロフォルム(1831年にスーベローが創製した)を使って手術に成功しているが、いずれも華岡青洲よりも30年以上遅れている。

 この成功により、青洲のところには弟子にして欲しいという医術に携わる者が殺到し、同時に奇病、難病に冒された患者が行列をつくるほどの盛況をみる。

 私が本書を読もうとした動機は華岡青洲の麻酔術が世界で初めての快挙であり偉業であったことを確認したかったという点にあったが、二人の女が争う心理描写の巧みさはこの著者ならではの冴えというほかはない。


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