「裸のサル」の幸福論/デズモンド・モリス著

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「裸のサル」の幸福論
「裸のサルの幸福論」
デズモンド・モリス (1928年生/イギリス人)著
新潮社新書  2005年4月初版

 
 著者は「裸のサル」(2006・6・3書評)で有名になったオックスフォード大学で動物行動学の博士号をとった学者。

「古代、人間は集団で協力しあい、戦略を工夫し、怯えを払拭、狩りを成功させ、獲物を分かち合うことで幸福感を味わい、これがサルからの分岐点となった」。

「そういう時代の残滓が現代人の脳にも存在し、形を換え、スポーツに、ギャンブルに、安全な恐怖(ジェット・コースター、ハングライダー、スカイダイビング、バンジージャンプ、危険を伴う急斜面での滑降、バイクを使った跳躍など)に、ゲームに、クイズに、パズルに、ダンスに、音楽に、笑いに、映画に、芝居に、読書に、ペットに、はては麻薬に、いじめに、暴力に、テロに、個人的な好みにより、それぞれが幸福感を求めている」。

「好奇心、野心、競争心、協力、社会性、遊び心、想像力すべてが相俟って人間を興味深い存在にした」

「幸福は感情であり、満足は気分、人生は苦痛の継続、それは短い幸福によってときに妨げられる」

「幸福のレベルは教育、教養、年齢、富裕度とは関係がない。むしろ、個々人のパーソナリティの違いと深い関係がある」(育った環境にも影響される)。「ただ、知的活動が脳の幸福をもたらす重要な源泉ではある。人間が幸福を拡大していけるかどうかは象徴的な代替物を今後も対象とし得る状況が続くかどうかにかかっている」

「変化と挑戦に満ちた創造的な生活を営み、努力を傾注することのできる明確な目標を持つ人は幸福である」

 以上が、本書の骨子だが、「アメリカでは毎年、女性に対する暴力事件が200万件以上も警察に報告され、こうした女性のためのシェルターが1500箇所も存在する。アメリカにおける女性ホームレスの50%が家庭内暴力から逃れてきた人」という言葉からは、アメリカが決して「夢の国」でも「豊かな国」でもないことを感じさせる。

 また、「大麻は英語で(Cannabis Sativa)というが、200以上もの異なった名前があり、マリファナ、バング、ハシッシュ、ガンジャ、ポット、グラスなど。大麻は5千年以上前から人々のあいだで利用されてきた。現在、大麻はほとんどどこの国でもご法度になっているが、それでも利用者は3億人をくだらないと推定される。ただ、痛みを止めるモルヒネは阿片から抽出されたもので、麻薬と薬剤とは不可分の関係にある」

「テロが行なわれるのは、あの世の幸福を保証されるという妄想が出発点であり、宗教的陶酔が惹起するもの」。

 宗教のもつ消し難い誤謬、あの世などというものはないことを知ったら、テロは激減するだろう。

 驚愕したのは「天才や有名人に性欲に耽溺(たんでき)する人が多いこと。例えば、バルザック、バイロン、ゴーギャン、ケネディー、ピカソ、スタンダール、トゥールズ、ロートレック、ゴッホ、ウェルズ、ワイルドなど」という名が暴露される。

 本書のなかに「人口が増え続けている事実は、人類は驚くほど平和的で友好的だから」という言葉があるが、確かに、歴史上、戦争が途切れなくあり、民族同士の内乱があれだけ起こっているのに、人口は増え続けている。私はその原因の第一は米ソ間に戦争が起こらずに冷戦が終結したこと、第二に人口過多の中国国内にもインドにもシリアスな内戦が起こらなかったこと、第三にスターリンや毛沢東やポルポトのような殺人狂が出なかったこと、第四に貧乏人が今だに多く子沢山を惹起していることの、三つの要素が原因だと思っている。将来、人口爆発は食料問題、飲料問題が不可避であることも暗示している。


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