赤い月/なかにし礼著

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赤い月
「赤い月」 なかにし礼作 新潮文庫

 
 テレビでドラマ化され、最近になって世に膾炙した本。

 本書のエキスは主人公の女性にあるというよりは(それはそれで女優の必死な取り組みもあって見所の一つであることは否定しないが)、結果的に、時代の背景、日本人が異国の地でいかに横暴に振る舞ったか、そして敗戦を迎えて、必然的にいかに悲惨な帰国を果たしたかを著わした作品として、「現実の歴史」として読むべきだ。日本の学校の教科書では絶対に出てこない事実に触れることが要諦であり、正確な認識にもつながる。

 戦前に日本の軍部が人の国に侵入して、横暴の限りを尽くした事実は、われわれとしても謙虚に反省し、認識すべきでもあろう。本書からは著者の一途な、事実をはぐらかすまいという意図が窺え、その当時の満州で暮らした人物模様も現実的な存在として感ずることができ、読む価値のある小説に結実している。

 いっておくが、満州には日本が米英に宣戦布告したとき、プロ兵団(日本の最強軍といわれた関東軍)が250万人もいたこと、それをロシアや中国に対する備えとしたことで、宣戦を布告した肝心の相手であるアメリカとの南洋での戦いにたったの25万人の兵士しか送れなかった。こうした戦略的杜撰、低劣な思考、外交の幼稚を忘れてはいけない。

 著者はテレビで拝見するのと同様、誠実な書き手である。


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