身体をめぐるレッスン1-夢みる身体「舞う身体、這う身体」(その7)

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身体をめぐるレッスン1

「舞う身体、這う身体」 金満里(キム・マンリ/1953年生) 劇団態変芸術監督

 筆者は自らが弛緩性麻痺障害者であり、色々な障害を持つ人を集め、舞台を使い演技を観客に見せる目的で演出をも担う監督。

 「身体障害者の身体は機能が巧みに発揮されないため、まっすぐに転がることができない。目的をダイレクトに果たすにはひっかかりがあり、不透明。これを付加された凹凸だと捉え、障害の身体を健常の状態に比べてプラスアルファに転化できると考えている。つまり、身体障害者の身体表現が身体芸術の中に、ある位置をもって成立し得ると確信した」

 「上記が舞台で演ずることの概念、身体とは何かという概念をくつがえし、従来の美意識、世界観、人間観を揺さぶるような芸術を創出してみたいとの野望が出発点」

 「機能性、能率性において、パラダイム(特定の時代における理論的枠組み)において、この身体は不利ではあるが、身体芸術においては生活の目的からはずれ、意図のコントロールが及ばない身体は、そのひっかかりを手がかりとして、不可視のものを表現として現出させる強力な媒体となり得る」

 「痙性麻痺障害者は、出産の前後に脳にダメージを受け、大脳からの支配が形成されそこない、原始反射が大脳の命令とは関係のない勝手な筋緊張や反射運動をのべつまくなしに生じさせ、目的のための機能的な身のこなしを妨害する症状を呈する。先天的に予定調和への破壊性を負った身体で、その破壊力は根源的である」

 「弛緩性麻痺障害者は背柱がぐにゃぐにゃ状態で、湾曲し、座っていても重力を受け、上半身がS字になってしまい、押しつぶされているような感覚がある。痙性麻痺との比較でいえば、頭脳からのコントロールに抵抗するのではなく、あくまで動きとの折り合いというファクターをひとつ挟まざるを得ず、上体を起こし、転がったり、這ったりすることは可能。脳の重さを恒常的に感ずるため、重力との闘いに終始する」

 「稼動域制限についていえば、先天的な骨形成の異常、結核菌によるカリエスなどで骨格の変形が生じたり、関節の変形が生じたり、関節が固まってしまい、運動の自由度が制限されること。こういうタイプの人の多くは筋力や神経機能には問題がなく、頭脳からのコントロールに対しては、直線的に応ずることができないため、いわば、迂回的に応じる身体を持つ」

 「身体障害の有無、種類に拘わらず、人間はだれもが実は空間と時間のなかで制限された存在であり、空間はねじれや傾斜、濃淡や迂回路に満ちた様々な貌(かお)を持っている」(宇宙を論じているような表現)

 「身体障害者による身体表現には魂から肉体が語りだす表現でなければならず、それが失われては、観客にとって芸術ではなく、演出でもなく、意味の掴めない障害者の身体の動きを延々と見せられ、ただのカオス(危機的状態)を体験するにとどまってしまう」

 「数々の死の淵をさまよった挙句に生きている障害者だからこそ、魂の飢えや、渇望といった人間存在の根本原理に肉迫でき、観客もそこに立ち会うことが可能となる」

 「身障者の身体表現は、内に拮抗するエネルギーのせめぎあいを抱えた剥き出しの裸の生命の体験であったり、地球上に存在する一個の物体として動きや空間の構造に縛りつけられ、翻弄されつつ、それでも、その中を泳ぎわたっていく生命の意志の体験だったりする」

 本章を読んでいて、脳裡を去来したのは2006年3月11日に書評した「ヴァギナ・女性器の文化史」である。

 子共は両親がセックスを行なうことで誕生するが、男性の側が女性が何回かオーガズムに達するまで射精を我慢できれば、身体障害者が生まれる率を減らすことが可能なのではないかとの思いである。

 つまり、ヴァギナの内部は酸で満たされ、精子のほとんどは殺されてしまうか、膣外に押し出されてしまうが、女性器がオーガズムを何度か経験すると、膣頚から膠(にかわ)状のものが降りてき、アルカリ性の環境をつくって精子の死滅を制御するとともに、自身の卵子が持つ欠陥を補い、且つ奇形のない精子を選別し、膣頚内部に運び込み、子宮内に着床させるとあったからだ。むろん、該当する本は性行為と身障者との関連について直接的には触れていないし、私自身が確証をもっているわけでもないが。

 私個人の周囲には叔母が難聴で補聴器を使う障害者であるが、重度の障害をもつ人はいない。ために、本章にあけすけに書かれた身体障害者自身の言葉には重みがあり、学ぶことが多かった。とはいえ、正直にいえば、彼らによる舞台を観賞してみたいという気にはなれない。正直にいえば、可哀想で見ていられないだろう。


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