野垂れ死に/藤沢秀行著

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野垂れ死に

「野垂れ死に」 藤沢秀行著 新潮新書 2005年4月初版

 

 以前、NHKが囲碁の永世棋聖、藤沢秀行を追って、盤を囲んで若手に教える場面や、後輩棋士から郵送されてくる実戦棋譜に評を加える場面や、家族との触れあいを含め、その生き様を放映したが、本書は波乱万丈というべきか、破天荒というべきか、藤沢さん自身がおのれの過去と現在とを、ほとんど暴露といった形で語っている。

 一局の勝負が終わるごとに神経が磨耗、それを慰撫するためにアルコールに溺れ、博打が大好きで競輪、競馬に足しげく通い、一時は三人の妻(むろん二人は内縁)をもち、それぞれとのあいだに子供をもうけ、そのうえに億単位の借金をしながら三家族の面倒をみなければならない立場にあった話をありのままに語る、その思い切りのよさに感服した。

 私はかつて囲碁が好きで、三年で素人二段をもらったが、その当時、藤沢さんが打った棋譜を新聞でよく拝見したが、思いもよらぬ手を打って相手を戸惑わせつつも、一方で大ポカをやるという棋士だったという記憶がある。

 天才棋士といわれる人がすべて藤沢秀行さんのような放蕩三昧をするわけではないが、良くも悪くも、八十年の歳月をそのような生き方で過ごすしかなかった男の素顔に触れつつ、それに比べ、あまりにも平凡な人生を生きてきた己に苦笑を禁じ得なかった。

 本人が認めているように、奥さんが凄い人で並みの女傑ではない。「神経が太い人」と言い換えてもよい。別の女のところに寝泊りし続け、三年も帰宅しなかったことのある夫である。それでいながら、どの女性をも含め、彼女らとのあいだにできた子供とも気軽くつきあい、往き来し、「ああいう男は一人ではとうてい面倒みきれない。複数でケアしてちょうどいい」、「おかげで、人生に退屈せずにすんだ」と眉ひとつ動かさずに言ってのける。

 ちょっとした夫の浮気にすぐ離婚を口にし、大騒ぎする平均的な女性との乖離は比肩を超えている。


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