銀狼王/熊谷達也著

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「銀狼王」 熊谷達也(1958年生)著
副題:開拓期の北海道、老猟師は幻の狼を追う
2010年6月30日 集英社より単行本初版 ¥1400+税

 

 この著者の作品としては以前に「氷結の森」を読み、書評したことがあるが、マタギ(猟師/ハンター)がことのほか好きなことが判った。

 本書の舞台は1887頃、(明治14,5年頃)、日本各地から狼の姿が見られなくなったと言われる時期の北海道に設定されており、猟が解禁になると、東北から北海道に行く主人公がアイヌの古老から「大型で、銀色の狼を息子が見た」という話から始まり、マタギとその狼との闘いをもって終焉するという物語。

 正直な感想として、小説だからそれでいいとしても、あまりに「つくり話」的な展開が多く、真実味に欠けている印象が読み手を白けさせてしまう。

 たとえば、「マタギが磁石を持たずに深い山に入る」という話はあり得ないし、「狼がマタギの同行した犬の腹に咬みつき、ハラワタを引きちぎった」という話には、野生の肉食動物は他の動物を襲うとき、まず首に咬みつき窒息死させるのが常道ではないかと思うし、「白人は生肉を食うことを厭わない」という話には、白人だってレアで食べる人はいるが、ヴェリーレアで食べる人は少なく、わずかでも火を通して口にする人のほうが多いし、この著作の焦眉である銀狼との闘いを「獣と人間の枠を超え、魂と魂が激突する」という言葉で飾っているが、そこに著者の作為と創作を感じてしまい、帯の広告で飾り立てた言葉が虚しく響く。

 厳しい書評で申し訳ないが、文章そのものへの配慮、文法的な気配りに関しては「氷結の森」で感じたことと全く同じ緻密さを感じた。


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