鍵/谷崎潤一郎著

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

「鍵」 谷崎潤一郎 (1886年生)著
中公文庫 1973年12月文庫化初版

本書が最初に発表されたのは1956年。

過日、同作者の「痴人の愛」を再読したうえで書評を加えたが、本書に触れたのは初めてである。

裏表紙には「性の悦楽と恐怖を限界点にまで追及した問題の長編」とあり、本書が世に出た当座はその道の権威からは相当の批判を浴びはしたが、ちょうど一年前に石原慎太郎の「太陽の季節」が芥川賞の受賞作になった経緯もあり、一方は「老人の性」、一方は「若者の性」という色分けがなされ、それまでの常識や俗物主義者との戦いにおいて、本書の勝利が確定、純粋文学作品として観賞されるようになったとは、解説者の言葉。

本書は男が自らの性的興奮を煽るために、妻に際どいことを意図的にさせ、妻の行為を邪推したり、想像したりすることで興奮を高め、妻との房事に狂ったようにのめりこむ男の姿を描いたもので、果ては妻の裸体をアングルを換えて撮影までするといういささか狂気じみた行為にまで発展する。

男のなかには妻のみならず、性の対象となる女性に、たとえば過去の性体験を話させたりし、嫉妬に駆られることで性的興奮を高める男は、必ずしも、僅かな例ではないし、そうした男の心理は理解できる範囲のものだが、女性にとっては理解しがたいようだ。

谷崎の作品のほとんどは「性」を軸とした作品が多いという事実からは、谷崎の「性」への執着心、拘泥心が伝わってき、そのことに徹底して向き合った作者だという印象は抜きがたい。

当時の純朴な青年には度の過ぎた内容だったことは確かで、現在時点でも、そうした印象はあるだろう。

さらに、作文は男の書く日記と、妻が書く日記とが交錯するが、男の書く日記は漢字以外はすべて片仮名で、現代人には非常に読みにくいことを指摘せざるを得ない。


前後の記事

«  (前の記事)

(次の記事)  »

現在はコメントを受け付けておりません。

サブコンテンツ