風が見ていた(下巻)/岸恵子著

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書評:ためいき色のブックレビュー-下巻

  「風が見ていた」下巻 岸恵子(女優)

  2006年9月1日 新潮社より文庫化初版 ¥514+税

 下巻を読み進めるうち、本書が「自伝的小説」というキャッチフレーズとはそぐわないように感じはじめ、ために下巻を読む意欲に上巻のときとはギャップができてしまった。むろん、小説だと思って読む限り、本書の価値を損なうほどのことではないものの、フランス語をあちこちにちりばめた文章にも次第に抵抗感を抑えきれなくなった。

 だいたい、この作者はまずは日本で名をなした女優であり、いきなりフランスで名を挙げたわけではなく、そのあたりの実際との乖離に対する怪訝な気持ちと、偶然の多発する展開への当惑が「気取りすぎ、巧みすぎ、才走りすぎた創作」といった印象に変わってしまい、期待を裏切られた思いに満たされた。

 女優なのだから、自己顕示欲が強く、それなりの矜持があっても不思議はないけれども、それをオブラートに包んで書いてこそ、作品が一層輝くというものではなかろうか。フランス語を撒き散らした文章づくりには、これが知性だとでもいうようなイキガリが感じられ、不快感が強い。

 「プラハの春」「大戦中にユダヤ人が受けた迫害とイスラエル建国」「ヴェトナム戦争と学生運動」「アメリカのキング牧師の暗殺」などなどの当時の歴史に触れるのはいいが、触れ方が浅く、表面を撫でているだけで、こうした背景描写にも違和感が拭えずに残ってしまった。

 「欲情した男の目が、一瞬、斜視になる」といった表現などには個性的な閃きを感じさせてはくれたが。

 


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