100億年の旅/立花隆著

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100億年の旅

「立花隆・100億年の旅」  立花隆著
1996年10月ー1997年7月に、朝日のサイアスにて初出
1998年3月朝日新聞社より単行本初版
2002年3月 朝日新聞社文庫化初版

 

 本書は正直いって難解、脳を含め、現代の最先端技術が日本の第一人者を通して紹介され、解説されてはいるが、未来に繋がる最先端技術をスムーズに理解することには、それに対する関心の有無に拘わらず、苦労、というより苦痛の種になりかねない。とはいえ、こうした内容に没入し、懸命に理解しようとしない限り、新しい時代の到来がとのような形で社会生活を変え、学問の世界を変貌させていくのか、理解を超えたまま、日々を過ごしてしまいそうな気がし、私は多少飛ばしつつも、最後まで読了した。

 これまでにも、「脳」に関する書物だけでも、「唯脳論」、「進化しすぎた脳」、「なぜ人の脳だけが大きくなったのか」「脳のからくり」「「脳のシワ」「脳の学習力」「脳とビッグバン(立花隆著)」、最近も「脳は意外とおバカである」を読んだばかりだが、それらから得た知識を総動員しても、本書を読み解くうえでは難渋を強いられた。

 本書では、内容が11章に区分され、それぞれ別個の専門家による解説が克明になされているので、それらのうちからエキスやエッセンスをピックアップしようというつもりでレポート用紙にまとめてはみたが、あまりに長くなるため、列記することは諦めることにした。

 強調しておきたいことは、「脳」に関した部分が多く解説の対象となり、遺伝子、性行動、脳型のCPU(コンピューター)、人工脳、人工知能の可能性のほか、昆虫世界からロボットに迫る話、超微細な世界、筋肉線維組織の分子の動きによるチェック機能、分子認識の仕組みを探る手法、仮想世界の体験、ナノテクノロジー、バイオテクノロジーなど、話題は多岐にわたり、興味のある人にはおあつらえ向きの内容であり、内容の難度は高いが、新しい時代への展望を幾らかでも知りたいとの希望をもつ人には一読をお奨めする。

 著者自身、サイエンスの知識のない人には読みにくい部分があるかも知れないが、わかりにくいところは飛ばして読み、細かいところは無視してもいいから、人類の「知のフロンティア」に起こりつつあることにドキドキしてくれたら幸いだと言っている。

 ニューロンやシナプスは解かっても、グリア、パイオニア・ニューロン、ミュータント、Pエリメントによる形質変化、などなどの言葉が日本語の専門用語と混在してるため、ときに頭が混乱するが、人工能に関してのデ・ガリス(オーストラリア生まれだが、国籍はイギリス、アメリカなど幾つも変更、現在は日本にあって研究に余念がない学者)による警鐘には耳を傾けるべきだろう。

 曰く「人間の脳は大脳皮質だけで140億、小脳など全部あわせてもニューロン数1,000億(10の11乗)程度もあるが、それでも頭骸骨によって空間は決定的な広さに押し込まれている。CPUを使って、広さに制限を設けなければ、数十年以内に10の30乗、40乗という途方もないニューロンをもつ人工頭脳が世界中の人間の脳を合計した数より多くなる。したがって、巨大な人工脳には大きなリスクが伴い、性能アップに関して国際的な規制が必要になる日がくるだろう。核兵器と同じく、兵器としての機能をも併せもつ以上、全人類的災禍をもたらしかねないから」。

 戦後、「いじめ」や「幼児虐待」などの問題が社会を騒がせたのは周知のことだが、CPUが出現した後に顕著になったのはインターネットのサイトを使った映像込みの虚偽の売買、売買春、出会い系サイトなどが招いた社会不安で、CPUの質の向上に伴う「禍」の問題にはデカリスの示唆する兵器化まであり得ることを認識せざるを得ない。

 私自身、本書に出遭えたことを幸運だったと思っている。 ただ、本書が書かれたのが1996年から1997年までで、文庫化されたのも2002年、執筆した時点からはおよそ10年がすでに過ぎている。日進月歩といわれる科学の領域での内容であり、その後の10年間に、それぞれのフィールドでどのような変化、変貌が起こったのか、あるいは起こっているのかについて、渇望に近い、知的欲求が制御できずにいる。


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