99999(ナインズ)/デイヴィッド・ベニオフ著

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ナインズ

「99999」ナインズ    デイヴィッド・べ二オフ(アメリカ人/1970年生)著
田口俊樹訳   新潮文庫  2006年5月文庫化初版

 

 アメリカの新鋭作家による9つの短編が収められた文庫。

 内容的には、どの短編も、いかにもアメリカの青年が書いたという印象が強く、アメリカ社会の一面を衝いてはいるが、共感するものも感動するものも特になかった。最終編の「幸運の排泄物」だけは私にとってホモセクシャルに関する未知の世界を覗かせてくれた。

 「悪魔がオレホヴァにやってくる」は、民話にしばしば構成される悪者退治への過剰な報復、残虐をきわめる殺害への疑問が描かれているが、この種の過剰さは日本の民話にも西欧全般の民話にも共通することで、目新しい印象はない。土でできた船に狸を乗せ、背中に唐辛子を塗りつけて火を放ち、沈没死させる話を想起させただけに終わった。

 印象的だったのは、先に述べた「幸運の排泄物」というタイトルの短編、ホモセクシャルたちの宴会の様子、HIVに冒された患者の状態、新薬の効果の有無を実験する場合の医師によるアメリカ的な「二重盲検法」という発想、などなど日本の作家による作品ではお目にかかったことのない「初見参」に、思わず真剣な読み込みをしてしまった。

 なにせ、私に男への関心はまったくないし、アメリカを舞台に仕事で駆け回っていたときも、しばしばホモに誘われたけれども、毛虫を嫌うのと同じ気分に陥った。いまだに、バイセクシュアルが男女ともに相手にする趣味嗜好を持つという意味は知っているが、ニューハーフ、オカマ、ホモ、シスターボーイ、それぞれがどう違うのかが解らないし、また解りたくもない。

 「幸運の排泄物」は、一つには、菊座を使うために、肛門の括約筋が緩み、常に紙オムツをするようになること、二つには、同時に同じ医師にかかったホモ友達は新薬実験の対象に選ばれず、主人公だけが選ばれた結果、HIVが進行せずに紙オムツをすることで生を持続している幸運を暗示している。それを「二重盲検法」というらしい。

 作者は2000年に「25時」という長編作品でデビュー、映画「トロイ」の脚本を手がけ、以後は映画用の脚本書きの依頼が多く、原稿料は百万ドルを軽く越えるレベルだという。

 日本の作家からは得られない人間感情、男女関係、男男関係などに関心が強い読者には読み応えのある作品群だとはいえるだろう。とはいえ、「本書はアメリカ社会を映している」と言ったら、アメリカ人すべてが「Yes」と答えるとは限らない。


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