ベトナムの少女/デニス・チョン著

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ヴェトナムの少女

「ベトナムの少女」デニス・チョン(中華系カナダ人)著
押田由紀訳  文春文庫

 ベトナム戦争中の全映像のなかで最も有名になった写真が表紙にきている。

 これが世界中にセンセーションを巻き起こしたキム・フック(Phan Thị Kim Phúc)という名の少女、北軍の攻撃を受け逃げ惑う田舎の村の子。

 写真そのものはいきなり西欧諸国の雑誌、新聞、映像を飾ったため、以後、新しいベトナム政権のプロパガンダとしても使われた。戦後、本人はキューバを含め、いたるところに派遣されたが、映像からくる印象が強いばかりに、少女時代を過ぎても格好の宣伝ツールとして使われ続け、かならずしも倖せな生活を送っていない。

 本書は少女の間の生い立ちから戦争経験、プロパガンダとしての宿命、戦後しばらくしてカナダに移住するまでの彼女の家庭、育ち、その間の苦悩と希望を追うドキュメンタリーとなっている。

 映像の偶然から一人の人間を相当の期間、政治的に使う、使われるという実態はいまも世界中で生きている。

 たった一枚の写真に撮られたことに端を発し、数奇な運命にもてあそばれた事実は、これもまた戦争という人類の業が残した爪痕の一つといっていい。

 ベトナムの一少女の生い立ちからカナダに亡命するまでの半生を追っていくのも一興であり、一驚でもある。と同時に、当時のベトナムを知るよすがともなる 。

 私個人が1996年にベトナムを訪れたとき、道路に立つだけで、銃撃によるものか地雷によるものかは知らないが、足が萎えてしまった若い男がスケボーの上に体を乗せ、寄ってきて金をねだる風景があちこちで見られた。 

 アメリカ軍がばらまいた枯葉剤爆弾の影響をとどめておくために創った博物館には枯葉剤で死んだ幼児の死体がホルマリンの入った大瓶に浮いていた。アメリカの残忍性を世界中に示そうとの意図を感ずるが、二度と訪れてみたいとは思わない。


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