ユダヤ人の歴史(上巻)/ポール・ジョンソン著

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ユダヤ人の歴史 上巻

ユダヤ人の歴史(上巻)
ポール・ジョンソン(Paul Johnson)著
徳間書店 石田友雄監修

 出遭えて心底よかったと思える書籍は滅多にないが、その滅多にない経験をさせてもらったのがこの本。

 数千年の長きにわたって、なぜ西欧でユダヤ人があれほど憎悪の対象になったのか、ナチによる大量殺戮「ホロコースト」にまでなぜ至ってしまったのか、そのうえ、ナチが一時的に支配した欧州諸国の支配下においてすらユダヤ人虐殺が行われたのか、さらにはソ連の共産主義体制をバックアップした功績にも拘わらず、スターリンによってなぜあれだけのユダヤ人が殺されたのか、そうしたことに強い関心があったが、本書は紀元前二千年にまで遡りつつ、ユダヤの起源、その後の運命に関して、これらの疑問に明快、かつ過不足なく答えてくれた。

 ユダヤ教は紀元前二千年前の「モーセ」にはじまり、一つはキリスト教の、もう一つはイスラム教への礎となったことは誰もが知っている。

 紀元1世紀末にローマ帝国がエルサレム神殿を破壊し、ユダヤ人をユダヤの土地から追放したあと、現在のテルアビブ近郊に集まったユダヤ人が聖典聖書を完結した(キリスト教旧約聖書)。このときから、ユダヤ人は郷土を失って迫害、離散の歴史をたどりつつも、聖典聖書に基づいて固有の民族宗教共同体を頑固に、かつ堅固に守り続けてきた。

 はじめの3百年間はローマ帝国に、その後1千7百年間はローマを継承したヨーロッパ人キリスト教徒によって筆舌に尽くしがたい差別と迫害を受けた。

 一口に「受難の歴史」というが、ユダヤ人が民族として受け続けた迫害、虐待、蹂躙、殺戮、離散の長い長い歴史はなまじのことではない。しかも、同じ土地で起こったのではない。ヨーロッパのほとんどの国で迫害と虐殺は繰り返された。軽率な説明は彼らへの冒涜とすら思える。

 ひょっとしたら私たち日本人には永遠に理解できない歴史かも知れない。

 海に囲まれた島国で、太平洋戦争で壊滅的なダメージを受けるまで、安寧を享受しつつ生きてきた日本人に比べ、ユダヤ人の生まれた土地は時代を担う覇者たちがユーラシアから、地中海から、西欧から、ロシアから、中東から、アフリカから通過する地点だった。言い換えれば、周辺地域の盛衰がもろに影響し、交錯する土地だった。これにやや相似するのは、アルメリア人とクルド人くらいだろう。

 正反対の環境、一方は民族間の憎悪や対立が起こりやすい地域にあった国、一方は海に囲まれて安穏な生活を長いあいだやってきた国、その事実はお互いに、正反対だからこそ学ぶことが多くあるのではないか。

 「あらゆる日本人に読んで欲しい書物」と帯にも書いてある。いや、日本人だからこそ、ユダヤ人の舐めた辛酸があるべき量と姿のまま想像でき、理解できるかも知れないとさえ思う。「こんなにも異なった民族が地球上には存在するのだ」という事実を。

 あるときは学識を生かして王者の主治医となり、経理を担当することで庇護をいただき、「神から選ばれた民である」ことを強調、「人類を指導するさきがけとなるために神に遣わされた」ことを吹聴し、ために、憎悪を買い、折角の安穏の生活から閉め出され、追放されることにもなった。ユダヤ人特有の増長増慢が憎しみを買った可能性がある。ユダヤ人の歴史を知ることは人間の業(ごう)を知り、我々自身のなかにも存在する煩悩や性悪さを知るためのよすがともなる。また、ユダヤ史を知ることは世界史を知ることにもつながる。

 ユダヤ人は「武力を誇るな。知性を誇れ」という言葉を残している。国を奪われ、土地から追放され、武力のない民族がいかに苦悩し苦闘しつつ、生き長らえたか、ユダヤ人の根性と、頭脳とは、「歴史の奇跡」といっていいだろう。ユダヤ人はとことんおのれの「智恵」と「頭脳」を使った民族であるが、そうしなければ、生存が断たれるからだった。

 現実に、ユダヤ人のなかには神童が多く、各分野に天才的な業績を残した人物も少なくない。アメリカの小中学校でも主席はいつもユダヤ系の子供である。金融業、貴金属業、ブローカー業、不動産業、保険業、精神分析学者、天文学者、思想家、哲学者、芸術家、タレント業、医業、学者業、共産主義者,革命児、彼らが現代社会に貢献している幅は広い。

 もっとも、彼らの担った職業が利益を生み、その利益追求の態度が憎悪の対象にもなり得たのだが。「ユダヤ人は貨幣を神」と思い込み(マルクスの言葉)、金融市場に邁進したのには、長い迫害の歴史のなかで生をまっとうするためには、「貨幣」と「血縁」しか信じられなかったからだ。

 本書を読了するのに一か月がかかり、学んだことを書きとめたレポート用紙は数冊にもおよぶ。一々を挙げつらうことは控えたい。

 世界的に名を残したユダヤ人を以下に列挙しておくのも、一理あるように思える。

 モーセ、イエス・キリスト、スピノザ、モーツアルト、ハイネ、フロイト、カフカ、アインシュタイン、カール・マルクス、トロッキー、ロスチャイルド、マーラー、メンデルスゾーン、ロイターなどなど。

 見ても分かる通り、ユダヤ人がどのくらい社会に貢献したか、あるいは影響を及ぼしたかには測り知れないものがある。そのほか、ノーベル賞が設立されたあと、化学分野でも、物理分野でも、多くのユダヤ人がノーベル賞を受ける栄光に浴している事実も知っておくべきだ。また、逆に、ユダヤ人だったためにノーべル賞を受けるに足る業績を遺しながらそれを逸したユダヤ人も少なくない。

 ただ、西欧諸国間に戦争が起こると、金融で成功しているユダヤ人は自分たちに有利な将来が約束されそうな側に支援を惜しまなかった。これも、ユダヤ人として生き長らえるためのやむにやまれぬ方策だったとしても、戦争の裏には膨大な金が動き、直接武器を手にしないまでも、戦争を遂行する国の背後にはユダヤ人の経済的背景が存在したことは否めず、戦争の裏には「女」ではなく、「ユダヤ人金融業者」がいたと想われる。

 最後に日本が「日露戦争」で勝利できた裏にもユダヤ人がいたことをつけ加えたい。

 当時、日本は貧乏国だった。戦争をするためにも、継続するためにも、資金が要る。明治政府は外債を発行したが、西欧諸国のどの国も買ってくれなかった。アジアの小国で、つい数年前までチョンマゲ姿だった、国際的な感覚の欠落した国が大国ロシアを相手とする戦争目的で発行する外債を買おうとしないほうが当たり前だし、常識であったからだ。

 当時、同盟国だったイギリスも王室はロシアと縁戚関係にあった。そうした環境下で、ユダヤ系アメリカ人金融業者が日本外債の買手となってくれた。背景にはロシアに居住するユダヤ人が迫害を受けていた実態があり、「血」で結ばれているユダヤ人はその実態に変化を期待して日本を支援した。むろん、金融業者としての意図には新興国日本への投資、日本が血道をあげていた満州鉄道への協同投資などの機会を狙ってもいただろう。

 おかげで、日本は戦艦を買い、陸戦を継続できた。日本の勝利は多くのロシア在のユダヤ人を救う結果ともなった。むろん、日露戦争が日本に有利に推移した裏舞台にはマルキシズムを背景とした革命が起こりつつあった歴史をも知らねばならない。

 また、下巻を完全に読了する機会があれば、別の機会にそれも書評したい。


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