脳は意外とおバカである/コーデリア・ファイン著

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「脳は意外とおバカである」
コーデリア・ファイン(Cordelia Fine)著  渡会圭子訳
原題:A mind of its own
帯広告:すべてのトラブルの元は脳の勘違いだった
草思社より2007年2月、単行本として出版。

 本書を書いた著者はオックスフォード実験心理学の一級優等学位を取得、ケンブリッジ大学で認知神経科学博士号取得、現在オーストラリアのメルボルン大学の応用哲学、公共倫理センター研究員。

 同書の広告帯の裏面には「脳というのは実に節操のないもの。とても人間の信頼には値しない。脳は常に真実をねじ曲げ、ごまかそうとしている。そのうえ、脳は自惚れが強く、感情的で、倫理のかけらもなく、自身を含め、あざむこうとする。強情で、不正直で、意志薄弱で、偏見に満ちている」とあり、文中、数々の実験を披露しながら、論理の正当性を立証する。

 (人間による目撃情報や観察知見には修飾作用もあり、脳が認知したものが物自体とイコールではないという説はかねてよりあるし、警察が第三者の目撃情報を信頼したために、無実の人間を犯罪者にしてしまったという例もある。目そのものが錯覚のベースとなる可能性は恒常的にある)。

 「脳は己を粉飾し、持ち上げ、実物以上に見せようとする。過ちも失敗も正当化し、都合のよいように記憶を書き換えてしまう。無敵で、不死身で、何にでも対応できるという誤った思い込みを植えつける」

 「とはいえ、こうした楽観幻想は人間にとって不可欠であり、おかげでプライドを保ち、落ち込んだ気分から脱却できる。多少なりとも、虚偽の混じった明日への展望がなければ、免疫機能が弱ってしまう」

 「自分は愚民や一般大衆のなかに含まれると思っている人はほとんどいない。脳は都合のよいもので、それを解決する性質を保持している」

 「成功は自分の能力によるものだが、失敗は他の人間の無能によるものと決めつけ、この自己奉仕バイアスによって自尊心が守られ、さらに増長する」(自分の責任を強く感じ、落ち込んでしまう個性もある)。

 「人間の記憶は良い記憶は脳細胞にしっかり根を下ろすが、悪い記憶はすぐ忘れる」
(悪い記憶が強烈すぎて、以降その人にとってトラウマになることもある)。

 「フロイトは、なによりも世界を知ることが幸せであり、人間のエゴは堪えられない考えを拒絶すると言った」

 「人間は何事に挑むときも、結果のいかんに拘わらず、言い訳を考えておく滑稽さをもつ。苦手なものがあっても、たとえば絵を描くことが下手だという認識があっても、自分は芸術には関心がないと逃げ口上を用意し、自己弁護をする」(芸術への関心度と、芸術を理解し、自ら取り組むこととは、本来別々のものではないか)。

 「脳は、なにはともあれ、自己保存のために動いていること、自己保存はときとして保身にも結びつく」
 (こうした自己保存への欲求はときに悪辣で、非道な手段にも出ることをも示唆している)。

 「誰の脳にも巨大な記憶データベースがある。それは自分が何者なのかという、人間の永遠の疑問(というよりテーマ)、つまり自己像に深くかかわっている。ところが、自己像というのは変動、自在なものであることが心理学の実験で判明している」

 「明るい展望をもつ人間は暗い展望をもつ人間より明るく長生きする。とはいえ、楽観的で自惚れの強いトレーダーは株式市場におけるゲームで良い結果は得られないというデータもある。これは非現実的期待や自己の能力の限界を最小限に抑制するのに役立つ戦略をもたないからだ」

 「脳が物事の判断をするとき周囲のムードの影響を強く受けることは常識。好天の日と雨天の日にセールスすると、雨天の日のほうが成績が良いのは買い手の心理が好天によって恵まれ幸せであり、雨天の日は人間は心理的に何かが足りないという心理に陥り、幸福感を求めるから」

 「それは、ちょうど、良い香が充満しているスペースと、香のないスペースで同じ人間が同じ痛みに見舞われたとき、良い香に満たされたスペースにいる人間の方が痛みを小さく知覚するのに似ている。僅かな感情の変化が認知機能にどう影響するかについては自分の好きな音楽や映像、花、絵画などに囲まれている場合と、そうでない場合に大きな差異をもたらすことでも理解できる」

 「音楽が好きで感動していた人間が突如その音がジャガイモを刻む音と変わらなくなることがある。これが『離人症』の症状。この症状がさらに進んだのが『コタール症状』で、腐敗症の脳の戦略が度を越えてしまったもので、世界の存在すら否定してしまう」

 「感情は公平かつ不偏であろうとする努力を別の意味でぶち壊してしまう。高まった感情が他の問題について判断を下すプロセスに誤って組み入れられてしまうことが起こる。感情の干渉効果はモラル上の判断にも大きく波及する。モラル上の判断も、こうして同じような偏見の影響を受けやすい。上司による命令で、欠陥車を売るセールスマンも給料欲しさのあまり、欠陥を知りながら、人間として持っているはずのモラルなどは吹き飛んでしまい、販売に力を入れてしまうのもこの例である」

 (人間はモラルだけで行動していない。むしろ、善悪のはざまのなかで生きている。性悪にも性善にも、いずれの側にも流れる可能性を恒常的にもっている)。

 「世界中に蔓延する無数の不正を直視するのは私たちの繊細な精神には荷が重過ぎる。脳は、むしろ、彼らが多難で悲惨な実態はかれらの自業自得の結果であると思い込む」

 「アメリカ人は悪魔に体を支配されることがあると信じる人が1億5千万人いる。一方、イギリスでは、死者と意思疎通できると信じる人が500万人いる。人は根本的に科学的な思考が苦手である。さらに人というものは不思議な経験に弱く、幻覚、既視観、虫の知らせ、離人観、宗教的経験は決して珍しい話ではない」

 (神を信じたり、迷信にこだわるのも同じ心理であろう、理解不能なもの、幻想的なものの存在を信じたいという欲求が化け物やUFOを信じたり、ネッシーの存在を願ったりするのではないか)。

 「脳は思い込みに固執する。脳は長い時間をかけて築いた信念に基づき、自分にとって都合の悪い証拠を避け、歪曲し、無視し、曲解する癖をもつ」

 「心配性で、神経質な女性ほど、破局を迎えやすい」

 「アメリカでは陪審制度が既に長く行なわれているが、陪審員の判断の根拠として最も影響力のあるのはマスコミによる報道である。(どうやら、世界の先進国では、どの国もマスコミが国を、世論を牛耳っているらしい)

 「偏見の色眼鏡で人を見ることがステレオタイプの強化に繋がっている。世界中の人間が世界をステレオタイプの色眼鏡で世界を勝手に解釈している」

 私の意見、感じたことを書く前に作者の「エピローグ」に本書のエキスが書かれているので、全文を以下に記す。

 「脳は私たちのあずかり知らぬところで独自に活動している。情報を巧みに操り、現実の表面しか見せないようにする。自惚れ機能によって、不快な真実を覆い隠す。倫理観を自分の都合のよいように改竄(かいざん)する。たいてい、自分の優越性を守るために他人を犠牲にする。

 感情もまた進む道を誤らせる原因となり、意見を歪め、混乱させる一方、行動や生きている実感を裏でこっそり操作している。不合理な思考が判断を誤らせ、間違いや錯覚にすぐ目をくらませる。偏見が事態をさらに悪化させる。無意識は秘密が好きで、陰で、我々を操りつつ、思考や行動に本当はどんな影響を及ぼしているか、教えようとしない。意志は気むずかしく、気まぐれで、好ましくない衝動に負けたり、すぐ他のことに気をとられたりする。

 そして、脳は私たちの善意などは意に介さず、ステレオタイプの色眼鏡を用いて他人を見る目を曇らせ、偏見に導く。

 脳に粉飾機能、歪曲やごまかしがある以上、世界は数多くの要素がぶつかりあって生じる不確かな現象であるにも拘わらず、真実を知りたいという欲求を阻止しているのは自尊心や身の保全や、それまで抱いていた主張を揺るがすまいとする強烈な、自己中心的な、衝動である」

 「人間の認識機能は優れているが、同時に多くの不合理、偏見、虚偽に曝されていて、知らぬうちに正確さがむしばまれている。私たちは脳のごまかしのリスクの影響をできるだけ減らす義務がある」

 西欧人、とくに米国人による競争社会に居住する作者と日本のような島国に住む人間とのあいだには、脳の自己顕示欲の点でも、人を押しのけての上昇志向にも若干異なるものを感ずる。米国はやはり「おれが、おれが」の社会であって、多種の民族が競合するベースの差異に大きな隔たりがある。

 だからこそ、世界の文化を最も理解していず、理解しようともしないのがアメリカ人であり(日本人も海外旅行をする割には世界を理解していない)、「民主主義」と「自由市場」を看板に、これを他国に押し付けても、うまくいくわけがない。以前にも本ブログのどこかで書いたが、「民主主義と自由市場が人類が到達した最高の社会形態」だとは私は思っていない。「色眼鏡でステレオタイプで見るな」という指摘は忘れずにおこう。日本人も他国に対して、そういう目で見ていることは事実なのだから。少なくとも、観光旅行で他国を理解しようとしても無駄であることは認識しておいた方がいい。

 「かわいこちゃん」のことを「Babe」、「あばずれ」のことを「Bimbo」というのは初めて知った。

 が、かといって、本書を著作した心理学者と話しがしてみたいとは思わないし、そばにいたいとも思わない。むしろ、これだけきつい女とうまくやっていける夫のツラが見てみたい。


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