エヴェレストより高い山/ジョン・クラカワー著

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

エヴェレストより高い山

「エヴェレストより高い山」
ジョン・クラカワー(Jon Krakauer/1964年生/アメリカ人)著
原題:A Mountain Higher Than Everest?
副題:登山をめぐる12の話
訳者:森雄二
2000年5月1日  朝日新聞社 文庫化初版
¥660+税

 本書の作者が有名になったのは、2004年10月20日に本ブログに紹介した「空へ」という作品で、エヴェレスト登頂での日本人登山者を含む事故の顛末を描いたものだった。

 本書はそれより前に上梓されたもので、12の短編が収められているが、いずれも登山、登攀に関する世界的なクライマーによる成功や失敗の話であり、内容的に私個人にとっては「空へ」よりも緊張を強いられた。

 作者は「登山というスポーツには正式な運営組織や公式の規則といったものがなく、難度の高い岩壁を登攀する問題点は偏に恐怖心をいかにコントロールするかにあり、命がけの登攀を快楽に変えるクライマーもいる」と、冒頭に近い部分で述べている。

 恐怖を煽る話の大半は氷ついた断崖絶壁を登攀するもので、とくにそうした場所で途中ビバーク(夜を明かす)するという展開は読み手の心臓によくないほど胸に迫ってくる。数々のロッククライミングに成功して名を残したクライマーが、あるとき、滑落して死んだケースも稀ではなく、冬期の凍てつく岩壁を登攀する恐ろしさがビンビン伝わり、どんなホラー小説よりも緊迫感があり、ドキドキするだけでなく息苦しくもなる。

 アルプスのモンブランの壁に挑んで死亡したクライマーは本書が出版された2000年までに、2千名を越えている。

 17,8世紀に世界最高峰と考えられていた山は、南米アンデス山脈のチンボラソ山(6,310M)で、エヴェレストが世界最高峰と知れたのは1865年、それ以降、登頂に成功するまで15人が命を落とし、登頂成功まで101年の歳月が費やされたという。

 本書のタイトルが「エヴェレストより高い山」となっている理由は、中国領土に存在するミニヤコンカとアムネチマン(6,282M)がより高いのではないかとの憶測が長い間、払拭されずにいたことと、もう一つは同じヒマラヤのK2にもエヴェレストより高い可能性が指摘されていたからで、これが8,616Mであることが判明し、エヴェレストの8,872Mという海抜が正式に明らかになるまで時間がかかったことを示唆している。

 ちなみに、世界に14座ある8千メートル峰のなかでK2の登頂失敗率が最も高い。

 本書にはアラスカのマッキンリーに関する話、デビルズ・サムに関する話、モンブランのアイガーの話、キャ二オンを遡るキャニオニアリングの話など盛りだくさんで、どれもが個性的で歴史に名をとどめるクライマーの足跡であり、胸に響く。

 作者の言葉に、「アメリカ人はフットボールや野球のようなチームスポーツを好むが、フランス人は劇的な単独行動を好み、一芸に秀でる者を評価する。また、アメリカ人は危険があれば、防御策を考えるが、フランス人はリスクは個人が負うべきだと考える」とあるが、かつてボクシングで名を馳せた人のほとんどはアメリカ人であり、フランスをはじめとする欧州各国はサッカーというチームプレイに強いという事実はどう考えたらいいのだろうか。

 本書からは、山岳用語がドイツ語だけでなく、フランス語にも多いことを知った。「ザイル」や「ピッケル」「グリセード」などはドイツ語だと思うが、上記した「ビバーク」の語源はフランス語が正解らしい。


前後の記事

現在はコメントを受け付けておりません。

サブコンテンツ