重力ピエロ/伊坂幸太郎著

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じゅうりょくぴえろ

「重力ピエロ」  伊坂幸太郎(1971年生/ミステリー作家)著
2003年 新潮社より単行本
2006年7月1日 新潮社より文庫化(加筆あり)初版
¥629+税

 このミステリーの軸は兄弟愛だが、主人公は兄、弟は母親が強姦されて生まれたという設定。

 本書に特徴的なのは、物語を展開するうえでの道具だてが複雑で新奇なこと。

 壁やブロック塀への落書きに加え、放火という犯罪を追う内容だが、落書きからグラフィティアートを、DNAの塩基配列からアルファベットを、アルファベットから英単語を、英単語とグラフィティアートから次の放火地点を推理するという、手の込んだ仕立ては作者の緻密な計算を暗示してあまりあるが、一方で読者からの反応、好悪を極端に分けてしまう可能性も否定できない。

 とはいえ、物語にピックアップされる古今東西の著名人があまりに多いことは展開の過程を複雑にする要因をなしつつも、それこそが作者の意図を含んでいて、本作品を書くにあたっての周到ぶりが窺われる。それにしても、「ビリヤードでキューを握るポール・ニューマン」まで登場したのには驚かされた。これが三っくらい昔に上映されたアメリカ映画であり、作者はポール・ニューマンが当時のイケメン男優であることを知っていた世代ではないからだ。

 そして、なによりも感心させられたのは、会話の妙というべきか、歯切れが良いうえに品格があること。

 さらに、「テレビは脳味噌を腐らせてしまう」とか、「分配の不平等を是正するために泥棒は存在する」とか、文中に頻繁に出てくる警句は作者のIQの高さを物語るもので、痺れさせられた。


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