悪人/吉田修一著

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悪人

「悪人」 吉田修一(1968年生/長崎県生まれ)著
2006年3月から2007年1月まで朝日新聞に連載
2007年4月 朝日新聞社より単行本として初版

 久しぶりに面白い小説に出会った気がする。

 登場人物がかなり多く、場面がぐるぐると回転するが、ストーリー展開を理解することに難渋することもなく、目次が「彼女は誰に会いたかったか」「彼は誰に会いたかったか」「彼女は誰に出会ったか」「彼は誰に出会ったか」、そして最終章が「私が出会った悪人」という奇抜さ、破天荒ぶりに、これまで遭遇したことのない斬新さを感じた。

 実際に、このような事件があったのではないかとまで思わせる緻密さ、奥行きの深さ、展開の妙があって、長編にも拘わらず、読書の継続を飽きさせない。さすがは大佛次郎賞と毎日出版文化賞を獲得しただけのことはあり、ミステリーに関心のない私ですら一気読みさせられ、かつ唸らされた。

 「悪人」というタイトルとは裏腹に、悪意だけの人間も、善意だけの人間もこの世に存在せず、誰もが「善悪のはざま」の中で生きているとの結末には、人間という生き物を真摯に観ている作者の透徹した慮りと視線が窺える。

 帯広告の「魂を揺さぶる人間ドラマの傑作」との評価に誇張はない。

 私をして本書にのめらせた他の理由としては、舞台が九州の福岡、佐賀、長崎、久留米といった、かつて何度も訪れた土地であり、知己が何人も居住しているという親しみもあったことは否めない。


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