雨はコーラがのめない/江國香織著

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雨はコーラがのめない

「雨はコーラがのめない」 江國香織(1964年生)著
2004年 大和書房より単行本
2007年7月 新潮社より文庫化初版

 この本もタイトルだけに目がいって入手してしまった。「雨がコーラがのめない」とはどういうことなのか、その一点に興味が集中したのだが、「雨」がアメリカン・コッカ・スパニエルという種の犬であることは読みはじめて即座に諒解した。それにしても、犬の名前が「雨」とは奇抜であり、作者のセンスの尋常でない冴えと洒落を感ずる。

 この作者の著作に接する度に、亡くなった父親、俳名「江国慈酔郎」という作家を思い起こすのが常で、親子の作品に相似の部分のないことにいつも驚きもし、当然という納得もある。

 本書は犬と音楽とを書くことで全編が貫かれ、「冴え冴えと綴った好エッセイ」との宣伝だが、父親の特徴であった灰汁の強さは全くなく、穏やかで、品のいい、静かな日常生活が描かれていて、いわゆる肩の凝らないエッセイに仕上がってはいるが、数年もしたら忘れてしまいそうな、インパクトの弱さが印象として残った。

 ただ、「犬と音楽」という点、私自身にも同じような経験がかつてあり、私の犬はイギリスで改良されたチャールス・キング・スパニエルで、コッカ・スパニエルに似て、毛足が長く、欧州における貴婦人の抱き犬として改良されたため、絹のような長い毛足が散歩をするたびに色々なものをくっつけてきたり、家屋では部屋の隅々にまで毛足が玉のように散っていて、これの掃除が大変だった。

 音楽は、私はジャズにのめっていたから、ジャズばかりを聴いていたが、最も頻度高く聞いたのはハービー・ハンコックの「Chameleon」で、単調なビートが胸を痺れさせ、ウィスキーの水割りを飲みながら聞く対象としては最高だった。

 本書を読みながら、そういった自分の過去のジャズとのかかわりがしきりに想起されたのは一つの縁というものだろう。ただ、作者が本書に挙げている音楽のほとんどは私には知らぬ曲が多かったが、作者が尾崎紀世彦が好きだという嗜好には若干驚いた。

 日本や欧米では犬に対して温かいだけでなく、家族の一員という意識が強い。また、必要な狂犬病やフィラリアの予防注射を行うのが常識だが、ロシア、中国を含め、発展途上国では、一般に放し飼いが多いわりに、フィラリアだけでなく狂犬病の予防注射をしない例が多く、犬はペットというより、食料の一種という考え方が強い。また、フランスなどでは犬を散歩に連れて出ても、途中で排泄した場合にその処理をせずに放っておく例が多い。

 話は横道に逸れたが、本書が「犬と音楽」を対象に書かれたため、内容は屋内でのことが必然的に多いのだが、家庭に関する印象が全く表現の外にあり、その意味で、非常に変わったエッセイだという印象が強く心に残った。


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One Response to “雨はコーラがのめない/江國香織著”

  1. hanachan-234 より:

    大事なんですね、タイトル・・・
     
     タイトル負けしないような良い本のようです・・・か・・・

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