アラブの格言/曽野綾子著

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アラブの格言

「アラブの格言」 曽野綾子(1931年生)著
2003年5月20日 新潮社より新書初版 ¥689+税

 本書に収められた格言がイスラム教を信奉する古今に存在した諸国のあらゆる格言を網羅しているわけではないだろうが、この著者が選んだ格言である限り、どれもがアラブらしい智恵にベースした格言であると思う。

 目に触れた格言を以下に少しピックアップしてみる:

*役人が現れたら、顔に唾を吐きかけてやれ。(ムーア)
 (イスラム諸国の役人は立場を利用した賄賂要求が多いらしい)

*ネズミの正義より猫の暴政のほうがましだ。(レバノン)
 (強者より弱者のほうが優しいから?)

*もしも罪を犯したら隠せ。(アラブ)
 (人間には性悪な側面が必ずある。人間を性善なるものと思うのもよいが、そう思うんだったら、性悪辣なるものと遭遇しても、もって瞑すべし)

*風はいつも悪い方向から吹いてくる。(サウジアラビア)
 (マイナスに覚悟を決めておいたほうが万が一の場合に落ち込まずにすむってこと?)

*最も聖なる土地に最高に薄汚い連中が住む。(レバノン)
 (政を行なう聖なる場に賄賂にまみれた男がいる)

*断食して祈れ。そうすれば、きっとよくないことが起こる。(レバノン)
 (ラバダンで断食しつつ祈れば、独裁者に鉄槌を下すことが可能?)

*犬は死ぬ前に必ずモスクの壁でウンコをする。(トルコ)
 (イスラム教徒は犬が大嫌い。イスラム教国で犬を見かけること自体、まずあり得ないから、ウンコをする犬を目撃することは稀有の機会に遭遇するような確率。犬は異教徒の代替か?)

*人は溺れると魚に食われ、浮くと鳥に食われる。(オマーン)
 (地下に埋めてしまうより世のためになっている)。

*私は三つのものを見たことがない。蟻の目、蛇の足、宗教上の特権階級者の親切。(ペルシャ)
 (古代ペルシャ時代でも、宗教関係者が大きな顔をしていたということ?)

*天使に支配されるよりは悪魔を支配するほうがいい。(マルタ)
 (天使の存在を信ずるより、悪魔のほうが現実的だ)

*人間には分相応というものがある。富んだ者にはたくさん、貧しき者には少なく与える。
 (過度の寛大は愚かさと同じ)。

*復讐は恥を消す。(アラブ)
*復讐するのは恥ではない。(レバノン)
*復讐はありきたり。(アラブ)
 (確かに)

*乳搾りはミルクをもたらし、圧政は血をもたらす。(モロッコ)

*遠い太鼓は甘い音楽。(トルコ)
 (近いところから聞こえる太鼓は直接戦火がわが身におよぶ戦の始まり)

*戦わないやつが戦争を奨励する。(オマーン)
 (太平洋戦争のときの日本もそうだった。「生きて虜囚の辱めを受けず」と言ったやつは直接銃を手にすることはなかった)

*人生はいかがわしい見世物だ。(アラブ)
 (神が存在する限り、人間は舞台に上がったピエロ)

*真実を語るなら、我々のそばにテントを張るな。(チュニジア)

*女はベールと墓以外なにも持っていない。(サウジアラビア)
 (イスラム世界の男尊女卑社会。ベールを強制するのは男のくせに)

*七秒の恋、七分の幻想、生涯の残りは悲惨。(アラブ)
 (イスラムの世界では男性と女性とどちらが幸せなのか)

*孤児には悲しむことを教える必要はない。(アラブ)

*判事になるやつはほとんど尊敬されない。(レバノン)
 (裁判が金次第という国はいくらもある)

*謙遜は人類の王冠。(中世アラブ)

*花嫁が欲しければ、金を使わねばならない。(アラブ)
 (アラブ社会は地縁、血縁に繋がっていることに意を注ぐ。だから、民主的な社会構造などは必要ない)

*王様、馬、女を信用するな。(ペルシャ)
 (かつてペルシャ人は馬を飼いならすことに苦労したようだ)

*神は彼の慈悲から女を除外した。(アラブ)
 (イスラム社会は徹底して女を侮辱するけれども)

*花婿は最初の七日間は王子、次の七日間は大臣、残りの生涯は囚人。(チュニジア)
 (我々の目にはイスラムの女性がイスラムの戒律や風俗のなかで暮らすことが倖せなのか否かが解らない)

*心を鬼にできない親は子供たちを育てられない。(アラブ)
 (鬼になり過ぎると虐待になる)

*運の悪い女は一年に二度出産する。(アフガニスタン)
 (確かに、あり得る。ばんばん産んでおけば、そのうち家庭に兄弟姉妹をメンバーとする一つの社会ができ、兄や姉は弟や妹をかばい、面倒をみ、自然に社会体制が確立する。親が直に子供らをいつまでも保護したり面倒みたりする必要はない)

*世界は戦争で始まり、戦争で終わる。(アラブ)
 (世界史が多くの戦争で飾られていることは事実)

*金ほどの使者はない。(アラブ)
 (支援金をもってこない外交は有効に働かない?)

 以上、辛辣を極め、諧謔に満ちた格言もあり、人間社会や人間性を鋭く抉(えぐ)り取った格言もあるが、それぞれの国の歴史や社会実態を背景にしている以上、それぞれの社会がもつ特色の上に格言も成立していると考えるのが妥当。

 著者はクリスチャンだが、イスラムに伝わる格言に感想を述べながら、「神は適当なときに思い出し、他のときには忘れ、必要なら引き合いに出し、困るときは遠のいていただくというのが理想の関係」とのコメントも記している。


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