論争する宇宙/吉井譲著

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論争する宇宙

「論争する宇宙」  吉井譲著
副題:「アインシュタイン最大の失敗」が甦る
集英社新書 2006年1月初出

 天文学の世界の裏話と、歴史的な発見や理論の構築にいたった諸々のケースについて詳しく書かれている。そのことがまず天文学好きな読者を喜ばせる。

 正直に感ずるところをいえば、「論争する宇宙」というより「論争を強いる宇宙」といった印象。膨張し続ける宇宙のことはいまだに謎が多く、人間の知的欲望を刺激してやまない。

 天文学を理解するためには、基本的に理解しなければならない専門知識、用語がごまんとある。

 たとえば、この書で中軸に据えている「アインシュタインの宇宙定数理論」をはじめ、「ドップラー効果」「赤方編移」「ハッブル定数」、ジョージ・ガモフの「アルファー、ベータ、ガンマ理論」「ビッグバン理論」佐藤勝彦の「インフレーション理論」「宇宙背景放射」「スペクトル」「絶対温度」、星を分類した「ハーバード式分類法」シャルル・メシエの「星雲状単体カタログ」ジェシー・グリーンとスタインの「準恒星状電波源」、ツビッキーの「ダークマター」、そして28等星(かつては24等星までしか可能でなかった)までの宇宙観測を可能にしたCCD(電荷結合素子)、むろん、「相対性理論は」はわかっていないと話にならず、「絶対光度」「赤色矮星」「球状星団」「超新星」「曲率ゼロの宇宙」などなど、切りがない。

 私たちはこれまで銀河は1000個だと理解してきた。ところが、2001年6月に打ち上げられた探査衛星「COBE」がもたらしたのは、6000個もの銀河の数、それでも質量のある星の占める割合はわずかに4%、CDM(冷たいダークマター)が23%,ダークエネルギーと呼ばれる「宇宙定数」が73%。結論としては、96%もの正体不明の世界にわれわれは生存しているという事実である。 この事実に、私は最も驚いたし、結局のところ人間に宇宙のことが全面的に理解できる日はやってこない気がしてならない。

 また、著者が関心を示す対象として「クェサー」というのがる。これは「準恒星状天体」とされるが、星なのか銀河なのか判断がつかないほど明るいという。20億光年以上の距離にありながら、赤方編移は6.5で、実に光速度の96%のスピードで遠ざかっている。これはもう宇宙の果てに近いところであるにも拘わらず、観測が可能なのは普通の銀河の百倍もの光を放っていて、太陽の一兆倍の光と、2-10兆倍ものエネルギーを放っているから、太陽で起こっている核融合反応では説明がつかない。

 これは星間物質にブラックホールがあって、強い重力圏に捉えられた星間物質が円盤状にかき集められつつ落ち込んでいく過程で、接近するほど加速され、重力エネルギーが解放される。水素の核融合反応に比べて桁違いに大きいため、そのとき発する電磁波が中心核を凝集した明るさになるというのが、現段階での説得力ある解釈だそうだ。

 ちょうど、ミッシングだった流星が70年ぶりに地球に接近し、先年は小さな天体から砂か石を採取するために日本の飛ばした衛星が、結果は不分明だが、活躍して帰還途中。本書はあらためて宇宙の謎に満ちた空間、宇宙の大きさについての認識を披露しつつ、復習をかね、旧有名人学者の名を想起させてくれる。

 判ったことは、「間違いだった」と本人が認めたアインシュタインの「定数理論」)を研究した別の学者が理論を演繹すれば、アインシュタインが意図し願望した「静止宇宙」とはならず、結果的に膨張か収縮の可能性を暗示していることを指摘してアインシュタインをぎゃふんといわせたり、またひそかに観測を続けていた学者のスペクトルについての理論発表が無視されるうち、次代の学者が引き継いでスペクトルの有用性を認識させ、さらに別の学者が時代とともに技術開発された観測機を使って、光の色からの恒星の明るさのプロットを作成、それにベースして別の学者が赤外線を使ってプロットの色を基本にしつつ、それぞれの恒星の距離についても理解できる手法を編み出したり、途中で投げ出された理論、見捨てられた観測結果などが、時代の変化や技術的な革新、あるいは当人の直観によって、例えば一度は笑止千万と揶揄された「ビッグバン理論」が復活したりした。

 学者間のやりとりや裏舞台の角逐や、必ずしも最初に発表した学者がノーベル賞の名誉に恵まれなかったり、天文学に胸をトキめかせ、絶えざる関心を持ち続ける天文フアンには格好の学習チャンスになる。著名な学者とそれぞれの偉業について復習する機会を持ちえたことにも感謝したい。

 アインシュタインをはじめ、ドップラー、ハッブル、フリードマン、シャルル・メシエ、フランク、ツビッキー、ホーキングなどなど、挙げればきりがないほど、懐かしい天文学者、物理学者、観測者の名が登場し、それぞれの業績、失敗、次代に残した遺産などなどに触れている。

 とにかく、宇宙観測も理論も年々進歩発展している。それにしっかりついてくだけでも大変。

 とはいえ、軍備もアメリカに任せ、人口爆発を起こしかねない地域に金をばらまいているわが国はいまだに国連の常任理事国にすらなれないでいる。いっそ、金は欧米に負けないだけの特殊望遠鏡、衛星を製造するほうにまわしたほうがいいような気がする。米国、ロシア、中国に負けない天文学者が日本にもいるし、負けないだけの知識も知恵も素材も技術もある。


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