闇の奥/辻原登著

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闇の奥

「闇の奥」 辻原登(1945年生)著
帯広告:世界各地に残る小人伝説を追う一代冒険ロマン
2010年4月10日 文芸春秋社単行本初版 ¥1500+税

 終戦直前の昭和20年6月、陸軍省より主人公の三上隆(民俗学者)は北ボルネオ島の調査を命ぜられ、そのままポリンのジャングルに入ったきり消息を絶ってしまったことから本書はスタートする。三上の調査目的は偏に「小人族」の発見だった。

 ちなみに、ボルネオ島の南はインドネシア領(カリマンタン)であり、北はマレーシア領で、マレーシア領の北部に小国だが石油の出るブルネイ王国が存在する。インドネシアもマレーシアも共にボルネオとはボルネオ島から海を隔てたところにも領土を所有し、そちらのほうに国の首都があるが、言語は双方共にマレー語であり、70%は互いに同じ言語を使う。

 ボルネオ島はインドネシア、マレーシア領土ともに、最近ではヤシ畑の開墾が盛んで、それがニュースになることがあるが、それでもなお多くの土地が原始的な動植物を生息させているとの認識がある。オラン・ウータン、象、テングザル、巨大ワニのほか、季節により定期的にやって来る青ウミガメも有名で、国でカメの産卵と子カメが海に帰るまでの安全を図ってもいる。私自身も5年ほど前に現地の言葉を理解できることを評価されたか、マレーシアの国立公園の管理を行なう局長の招待を受け、観光面からの助言を求められて訪れた経験があり、珍しい植物園、亀の産卵、亀の子の海に向かって走る姿、オラン・ウータンの餌付け風景など見せられた。

 三上隆の足跡を追って、1955年に第一次捜索隊が派遣され、さらに1966年に第二次捜索隊が、1982年に第三次捜索隊が派遣される。その間、現地の人間から「それらしい人物がウネという現地の女と結婚していること」だけが判明した。

 その間、私もインドネシアに滞在していたからよく知っているが、インドネシアのフローレス島の洞窟で小人族の化石が何体も発見され、これが現在の人類とは別種の種族だと科学的に証明されて、「ホモ・フロレエンシス」と名づけられた。この化石を調査した結果、この種族は身長が1メートルほど、脳の容量はチンパンジー程度であることも判った。この種のノンフィクションの好きな私はいよいよ本格的に小人族の生きた姿が紹介されるのかと期待新たに、ページを繰ったが、信じられないことに、本の内容は途中からがらりと変化。

 まず、ネグリート族を小人族とする考えが記されていて、きわめて奇異な印象をもたされた。東南アジア全体には元々、マレー族、ネグリート族、ポリネシア族の混合から成る民族が主流だとはかねての理解だった。少なくとも、私にはネグリート族が小人族だという認識はない。

 本書では、同じ小人族のピグミー族は元々アフリカのナイル川の源流に棲んでいることが1980年にドイツの探検隊によって発見されていて、そのことまで本書に紹介される以上、本書が小人族の生息を確認する探索紀行、つまりノンフィクションであると勘違いするのも当然という気がする。だから、それなら、「ホッテントット族は?」という疑問が沸きもした。

 ところが、途中から唐突に主人公の三上隆はマレー半島を越え、チベットに行き、僧になったとか、ダライラマに会ったとか、中国共産党までが登場、章が変わると、紀伊の熊野が舞台となり、和歌山のカレー殺人事件が採り上げられたりして、読者としては訳が判らなくなる。

 物語の展開にしろ、エピソードにしろ、プロットにしろ、あまりに無理が多く、本書の書かれた意味、目的がすっきりしないまま、残念ながら、私は読書の継続をギブアップした。時間を無駄にさせられたことへの怒りばかりがしばらくは消えなかった。


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