ベルリン物語/川口マーン恵美著

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ベルリン物語

「ベルリン物語」 川口マーン惠美(ドイツ、シュトゥットガルト在住)著
副題:都市の記憶をたどる
2010年4月15日 平凡社新書 初版 ¥780+税

 本書は1870年代、多くの領邦(公国)から成っていたドイツが鉄血宰相とうたわれたビスマルクによってプロイセンを中心に統一を完成した頃から現在に至るまでの歴史をベルリンという都市を中心にすえてまとめたもの。

 帯広告に「一夜のうちに世界が変わっていた」とあるが、それはむろんベルリンの壁が崩壊した1989年の出来事である。

 日本人の多くもテレビでハンガリー経由、チェコ経由、ルーマニア経由の脱出路や人々の逃亡風景とともに、数日後にはベルリンの壁の検問所が開放され、壁の上にはツルハシを持った男たちの姿、狂喜する東西ドイツの人々の姿に感動させられた。

 第二次大戦直後には、ソ連による武力介入で国家が分断され、ベルリン市内にコンクリートの壁が立ち上がったばかりでなく、東西ドイツの国境沿い(1387キロ)に無人地帯が構築され、そのうちの800キロの国境に地雷が埋められた時から後半の内容には読書を途中でやめられなくなるほど感情移入させられる。

 ただし、戦後の経済成長の過程で、西ドイツが多くの外国人労働者を受け容れた結果、現在では人口の4人に1人は外国人という人口構成となり、大半がトルコ人で占められてしまったという事実や、ベルリンの壁崩壊後に東ドイツが抱えていた財政難や環境汚染に立ち向かわざるを得なくなり、あわせて東ドイツ国民の医療保険、失業保険、年金などにも膨大な金額におよぶ支援をせざるを得なくなって、崩壊直後の熱狂が醒めていった裏面史には、過去にもたらされたドイツにかかわる報道を超えた緻密さと現実的な認識が窺える。

 そして、末尾の、「それにも拘わらず、戦後のドイツは日本と並び経済大国に成長、EUを主導する国になっただけでなく、世界に発言力を増し、信頼される国になったのに比べ、日本はアジアを主導する国にもなり得ていない」との作者の言葉には、反論の余地がない。

 いうまでもないが、ドイツと日本との差は、アメリカから与えられた憲法を独自の考えに立って修正し、自国を守る正規の軍隊を持ったたドイツと、あくまで「Self Defence」という、他国からの攻撃に後攻めで立ち向かわざるを得ないという過酷な体制のまま、アメリカとの安全保障条約に依存した腑抜けた精神でいる日本との差であって、はっきりいえば、軍事力という背景を外交に使えない日本とドイツの差に結果している。

 北方四島が未だに返還されないのも、北朝鮮が拉致した日本人を返そうとしないのも、「自衛する軍事力」しか持たないことが近隣諸国から舐められる根本の原因だと私は思っている。


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One Response to “ベルリン物語/川口マーン恵美著”

  1. タカダ より:

    日本を見つめているのでしょうか。確かに考えるべき事ですね。とりあえず民主党には安定してほしいです。

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