裏切られた神話・素顔のドイツ/山本武信著

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裏切られた神話

「裏切られた神話・素顔のドイツ」
山本武信(1954年生/共同通信記者)著
1995年2月20日  作品社より単行本 初版
¥1600+税

 作者は共同通信社の記者として1991年から1994年まで4年間をドイツに赴任、滞在した。記者としては、赴任を前に予めドイツを中心とする欧州の歴史、文化、民族性などにつき充分な知識をベースとして蓄えてはいただろうが、滞在中は現地で見聞する事象はもとより、報道されるあらゆる分野において、軍事、政治、外国人労働者、金融、各国との軋轢など、新たに知ることが多かったことが窺える。

 作者が滞在した期間は、ドイツを中心にあらゆるフィールドで過渡期的な諸々の事象が露わになった時期である。ベルリンの壁が崩壊し、東西ドイツの統一が実現し、同時並行するようにEUへの移行、共通通貨への模索、ネオナチや極右の台頭、周辺からの膨大な難民の流入などが、この短期間に一度に起こり、ドイツ政府は多くの問題を処理する上で艱難辛苦を舐め、他方、欧州各国に激しい風波をもたらした。

 その意味では、得がたいタイミングで現地に滞在することができ、望外の動きに接することができたはずで、作者は目にし耳にし、報道が伝えるところのものを含め、その全貌を一書に収めたいとの衝動に駆られたように思われる。

 ために、テーマが広範にわたり、章の相互にダブりもあって、総花的な内容になり、焦点の定まらない部分が散見される結果を導いている。要するに、書きすぎているという印象。活目すべき時期に遭遇していることから、話の内容は格別に面白く、かつ読者としては学ぶところも僅かではなかったが、書き方に今少しの工夫があったら、全体がもっと引き締まった良書に結実したのではないかという気がする。たとえば、自動車に関して書くのならば、個々のメーカーごとに書くのではなく、一つのテーマの下でまとめ、あわせてアウトバーンの問題、鉄道の問題を一緒に扱ったほうが文章にダブりを減らす効果もあり、読者の記憶に対するインパクトは強いものになったはずだ。

 さらにいえば、この期間に大きな問題が山積していたにせよ、結局はたったの4年間のできごとでしかなく、1995年以降、2009年の今日までの14年間には、当時の問題が解決され、妥協され、EU統合が成立し、ユーロという共通の通貨も船出して、各国の思惑を秘めながらも、多少の問題を引きずりながらも、当時とは比較を超えた落ち着きをみせている。

 また、一方では、アメリカのサブ・プライム・ローンに端を発した金融恐慌で、アイスランドが国ごと倒産に追いこまれ、欧州の金融機関も保険機関も投資機関も半端でない影響を受けている。本来なら、2009年までの続編を書いてくれれば、何がどう関連し、問題の解決に至り、何が新たな課題として浮上したかが判り、一層面白いというだけでなく、多くの示唆を与えてくれたであろう。現実に、東ドイツとの統一がなり、ソ連邦から解放された旧東ドイツ人が恐慌以後、仕事を失い、「ソ連邦時代のほうが良かった」と嘆息する例が増えていると仄聞する。

 以下は面白いと思ったところ:

 「ドイツ人は変わり身が早い。ドイツ人は荒っぽい、ある日突然スタンスが変わる」

 「ドイツは欧州の鬼門である」(欧州のほとんどの国では同じように思っている)

 「徹底した合理主義は法と秩序に裏書きされ、柔軟性や人間味に乏しい。規則づくめの社会で、ドイツ人は融通の効かない民族と化している」

 「ドイツ人は清潔だが、犬の糞だけは路上に放置する」

 「ドイツ人には外国人敵視と並んで子供敵視もある。子供がピアノを弾くと、封書にうるさいというクレームを書いて届けてくる」

 「ドイツで3K仕事をしているのはトルコ人やギリシャ人だが、彼らが不在だと経済が成り立たないという必然性があって移民を認めたくせに、激しく侮辱する」

 「ドイツの子供が学校で東洋人をチンチャンチョンと呼ぶ。中国語の発音に由来したアジア人蔑視用語である」

 「ドイツ人はアメリカ人以上に、謝らない」 (中国人も謝らないけれども)。

 「ドイツ語は響きの強い言語だから、普通の会話でさえ怒られている気分になる。だから、討論になると、男女を問わず、すさまじいパワーで圧倒してくる。歴史的に絶えず周辺国と戦火を交え、国境線が揺れ続いた非情の歴史が背景にある。ヘーゲルやカントのような難解な哲学も負けず嫌いな国民性と無縁ではない」

 「西ドイツ人に比べれば、東ドイツ人ははるかに親切で、優しく、ぬくもりを感じさせる。東ドイツ市民は西ドイツ市民に対し、傲慢、横柄という印象をもっている」

 「ドイツ人は不器用で、美容院などはひどい。ドイツ人は計算機を使っても計算ができない。大銀行ですら、金額のミス記入をする。報道の面でも、平気で誤報を掲載するし、誤報をしても決してお詫びはしない」

 「ドイツ人は商売でも、買い手に頭を下げないし、ありがとうの一言もない。売ってやるという姿勢」

 (こうした商売の姿勢は一般に欧州全体、とくに北欧州に共通している)

 「満足に本を読んだり、書いたりできないドイツ人が300万人はいる」

 「ストレスの多い社会に生きているドイツ人にとって唯一のストレスの解消場が制限速度のないアウトバーン」

 (欧州の高速道路はドイツのアウトバーンとも繋がっているが、各国とも独自の料金を徴収する仕組みになっている。ドイツでもフリーだったアウトバーンを有料にするとの議論があるが、大半のドイツ国民は賛同していない)

 「権力の乱用、贈収賄などのスキャンダルには激しく非難する風土なのに、不倫には寛容。不倫は息抜きという捉え方。ドイツ人女性の6-7割が最低一度は浮気の経験がある」

 「欧州のセクハラ大国は第一にスペイン、第二にドイツ、第三にイギリス。フランスは罰則が設けられてから激減。なぜドイツでセクハラが多いかは、女性蔑視の社会体質、ドイツ人がもともと性的に奔放、女性の方に男性を求め、受け容れる潜在意識があり、堅苦しい社会に対する無意識の反発であり抵抗」

 「ユダヤ人が大量に殺されたことに対し、ドイツ人国民の32%がユダヤ人自身に責任があると思っている」

 「戦後、長期にわたってプレシュアを受け続けてきたため、ナショナリズムの高揚が国民間にひろがってきたことが域外への派兵を決定させ、右旋回を呼び起こした」

 (ボスニア・ヘルツェゴビナへの参戦以後、国外への派兵に逡巡しなくなっている。この点、同じ敗戦国だった日本は自信の喪失から、「平和が好き」などと腑抜けたことを内外に言うことで平和が実現できるという甘い考えに疑問を感じていない)。

 「オランダ人の世論によれば、71%がドイツ人は強圧的と答え、60%が傲慢、46%が戦争好きと答えた」

 「ドイツのTVはニュース番組でも凄惨なシーンをそのまま放映するし、暴力場面もボカシなしで放映する。そのうえにポルノまで放映する。子供たちは映像を見て、すべて体験した気持ちになり、心の乾燥、感情の枯渇を招いている。こういう子が成長して極右やネオナチになる」

 「ドイツの歴史は極端から極端に走る」

 「スペインと韓国への鉄道の売り込みで、ドイツはフランスに負け、ショックを受けた」

 以上、「  」内はすべて作者が本書で書いたものだが、ドイツ人に関する悪口だけをピックアップしてみた。故意にそうしたのは、私にはその部分がことさら面白かったから。


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