黒い春/山田宗樹著

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「黒い春」 山田宗樹著
幻冬舎文庫  2005年10月初文庫化
2000年3月角川書店より単行本初出

 久しぶりのミステリーもの。知人から「ぜひ読め」と言われて読んだ。医療面での知識がないと作品化できないという点では帚木氏の作品に似通ったものを感ずる。

 人類が滅亡するとすれば、自然環境の破壊か、巨大隕石の落下か、未知のウィルスの広範囲発生か、とはかねて言われていることだが、本書は未知のウィルスの発生をべースに物語を紡いでいる。根拠をなしているのが、遣隋使、小野妹子が天皇から預かった「日出ずる処の天子、日没する処の天子に致す」という国書を携えて、当時世界で最大の力を誇る髄の国王、煬帝の宮殿に達した歴史的事実。

 当然ながら、東に浮く小さな国、倭国(チビの国)の王の国書を見て、煬帝は怒り心頭に発したはずだという見方にはだれにも納得がいく。

 問題は、当時、煬帝が兵を送って攻めさせた現ヴェトナムの北部から帰国する兵士のなかに黒い粉を口から吐き出して死に至る奇病にかかる者が多く、(現在ヴェトナムでそうした奇病があるとの話は聞いたことはないが)、日本からの遣いである小野妹子に13人の軽輩を意図的に護衛につけ、日本に送り返したなかの1人が、日本到着後に口から黒い粉を吐いて死ぬという、後に「黒手病」と名づけられる病気に羅患、琵琶湖の沖島(当時は無人島)に葬られる。小野妹子は、あわせて煬帝からの国書(内容は当然だが、日本の天子を軽くみたもの)は途中で盗まれたことにして廃棄したという仮説がベースとなっているあたりには、古い歴史が本ミステリーに重みとして加えられている感がある。

 煬帝は本来なら直接、生意気な倭国を攻めたいところだったが、当時、朝鮮半島の高句麗を攻めることに汲々とし、連敗していた状況から、奇病(いまでいえば科学細菌兵器)を日本に持ち込んでいやがらせをしようとした可能性があるとの前提に立つが、当時、日本には、その菌を媒介して人間を死にいたらしめる生物が存在せず、ために1,400年を経た今日になって、たまたま重い石で蓋をしてあった墓をあばき、奇病で死んだ中国人の遺骸を博物館に搬送したために、現在では日本の土地にもある植物に菌がとりつき、その植物を媒介とし、唐突にウィルス化して人間に襲いかかるという設定。

 内容としては、1346年にトルコのクリミア半島に端を発し、数年間ヨーロッパ中に猛威をふるった黒死病が脳裡に浮かぶが、黒死病は体表に黒い斑点ができて死に至ったらしく、ネズミによって媒介されたペスト菌だった。

 世の中には、現在でも、ワクチンがない病気は結構存在する。インフルエンザにしても、新しいタイプのものが発生すれば、ワクチンはないし、鳥インフルエンザ、SARS、エイズ、ウィルス性出血熱コレラ、エボラ出血熱などにもいえる。 また、出生がまったく未知のウィルスが創造さる可能性も否定できない。さらに、ワクチンができれば、そのワクチンを超越してくる新しいウィルスの発生があって、いたちごっこになる。

 知らなかったが、日本で初めて天然痘が発生したのは734年(奈良時代)で、734年暮れに大宰府に到着した新羅からの使者か、735年3月に日本の遣唐遣が帰国しているので、いずれかが天然痘をもたらしたのではないかという説。

 本書は歴史を紐解きつつ、現代に広がる可能性のあるウィルスを軸に据えて、話を展開させていく過程は、起承転結を含め、大変おもしろく、途中で止められない類の本として結晶している。

 「未知のウィルスが人類の滅亡と深くかかわるであろう」との説は、もともと他の滅亡説に比べて信憑性が高く、その意味でも、発想から、ストーリーの展開、終焉にいたるまでの筆運びはなかなかのものだ。


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